「今月12回、トイレで離席しています」派遣社員の行動を記録し会議で報告した男。だが、男に待っていた辞令とは
行動をすべて記録する同僚
客先に常駐していた頃のことだ。同じ部署に、女性派遣社員への当たりがきつい男性社員がいた。
とにかく、彼女たちの一挙一動を監視しては、手帳に書き留めるのが癖になっていた。
何時に席を立ち、何分で戻ったか。トイレに何回立ったか。そんなことまで、几帳面に記録している。
気味が悪いと感じていたのは、私だけではなかったはずだ。
派遣社員の一人が、勇気を出して抗議したこともあった。
「そんなに記録して、いったい何がしたいんですか」
「派遣さんの勤務態度を、管理してあげてるんですよ」
「そんなの、頼んでいません」
悪気のかけらもない口ぶりに、彼女は硬い声で言い返した。だが、彼はどこ吹く風だ。
上司が「行き過ぎだ」とたしなめても、「自意識過剰では?」と薄笑いを浮かべるだけだった。
「これも立派な業務ですから」
そう言い張って、彼は今日も誰かの背中を目で追っていた。周りは関わるまいと、見て見ぬふりをするしかなかった。
辞令を見た男の顔
その振る舞いが頂点に達したのは、部内会議の席だった。
報告事項が終わると、彼はもったいぶって一枚の資料を配り始めた。ある女性派遣社員の行動記録だった。
「今月12回、トイレで離席しています」
数字を読み上げる声は、どこか誇らしげですらあった。日付ごとに時刻まで書き込まれた記録を、彼は一枚ずつめくっていく。
「回数が多すぎます。派遣なんですから、もっと働いてもらわないと」
会議室が、しんと静まり返った。名指しされた女性はうつむき、他の出席者は絶句したまま、誰も彼と目を合わせようとしない。
ドヤ顔の彼だけが、その空気に気づいていなかった。
「何か、おかしいことでも言いましたか」
沈黙のなか、彼はきょとんとしていた。上司が額を押さえ、深いため息をついたのを、私は見逃さなかった。
それから間もなくのことだ。彼は、まずハラスメント研修の再受講を命じられた。そして研修を終えた矢先、一枚の辞令が手渡された。異動先は、女性社員が一人もいない、まったく畑違いの部署だった。
辞令の紙面に目を落とした瞬間、あれだけ得意げだった彼の顔から、さっと血の気が引いた。唇が震え、顔面は蒼白になっていく。何が起きたのか、ようやく飲み込めたのだろう。
「……なんで、俺が」
「当然の結果ですよ」
かすれた彼の声に、事情を知る同僚が、ぽつりとそう漏らした。
人の離席を数えて吊るし上げていた男は、自分の名前が書かれた一枚の紙を前に、言葉を失って立ち尽くしていた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














