「ここ、通路ですよね」運動会の通路にシートを広げた家族。だが、保護者の一言で状況が一変
日陰に広げられていた大きなシート
娘の保育園の運動会は、朝からよく晴れていました。
園庭には保護者用のテントがコの字形に並び、競技に出るクラスの保護者が前方へ入り、競技が終わると次のクラスと入れ替わる決まりになっていました。
そのため、テントの後ろや横は、保護者が行き来する通路として使われています。
ところが、コの字の曲がり角に差しかかったところで、大きなレジャーシートが目に入りました。
シートには3家族ほどが座り、水筒や上着、荷物が並んでいます。ちょうどテントの陰になる場所で、日差しを避けるには居心地がよさそうでした。
近くを通ったとき、座っていた女性の声が聞こえてきました。
「順番が来るまで、座っていたいから」
朝から立っているのは大変ですし、小さな子を連れていれば休みたくなる気持ちも分かります。
ただ、シートが通路にはみ出していたため、その場所だけ人が一人ずつしか通れなくなっていました。
入れ替えのたびにできる小さな渋滞
競技が終わるたび、保護者がいっせいに動きます。
すると毎回、シートの前で人の流れが止まりました。
大きな荷物を持った人は体を横に向け、子どもの手を引いた人は前から来る人を待ってから通ります。
「すみません、通ります」
そう声をかけると、シートに座っている人たちはそのたびに膝を引いてくれました。
「どうぞ」
嫌そうな顔をするわけでもありません。
だから余計に、周囲も強くは言いにくかったのだと思います。
私の前を歩いていたお母さんも、一度立ち止まり、狭い隙間を抜けたあとで小さく言いました。
「ここ、通路ですよね……」
私も同じことを思っていました。
座りたい気持ちは分かる。でも、一人ひとりが通るたびに避けてもらう場所なら、最初から少し空けておいたほうがいいのではないか。
そんなことを考えながらも、私は何も言えずにいました。
「ここ、みんなが通るので」
しばらくすると、次の競技を見るために別のクラスの保護者がまとまって移動してきました。
また曲がり角で人が詰まります。
そのとき、一人のお父さんがシートの前で足を止めました。
「すみません。ここ、みんなが通るので、シートを少しだけ内側に寄せてもらえますか」
怒った言い方ではありませんでした。
シートに座っていた人たちは、一瞬周囲を見回しました。
そこで初めて、後ろに何人も待っていることに気づいたようでした。
「あ、すみません。そんなに邪魔になってました?」
そう言いながら、荷物を持ち上げ、シートをテントの内側へ少しずつ寄せ始めました。
ほんの数十センチ動いただけでしたが、人がすれ違える幅ができました。
それからは、競技が入れ替わっても、曲がり角で列が止まることはありませんでした。
私が印象に残ったのは、注意された家族が反発しなかったことです。
おそらく本人たちは、周囲がそこまで通りにくそうにしていることに気づいていなかったのでしょう。
帰り道、私は夫にその話をしました。
「誰かが言わないと、分からないこともあるんだね」
そう口にしてから、自分もずっと気づいていたのに何も言えなかったことを思い出しました。
相手に悪気がなさそうだと、かえって声をかけづらいことがあります。
けれど、みんなが使う場所だからこそ、困っていることを穏やかに伝えるのも必要なのかもしれない。そんなことを考えた運動会でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














