「今日は判を押しません」実家の土地と畑を姉が相続すると初めて聞いた母。200万円を前にした決断
何も知らされないまま、話が進んでいた
祖母が亡くなって半年ほどたったころ、母が実家へ呼ばれました。母は二人姉妹の次女で、姉の伯母が家を継ぎ、伯父と実家で暮らしています。
祖母が亡くなってから、相続について母が話し合いに呼ばれたことは一度もありませんでした。その日も「話があるから来て」と言われただけで、私も付き添いで一緒に行きました。
座卓の向こうで、伯父が何枚かの書類を広げました。
「実家の土地と畑なんだけど、こっちでまとめて引き継ぎたいと思ってる」
母は書類を見たまま、しばらく黙っていました。
「待って。私、今日初めて聞いたんだけど」
「家も畑も、これから管理するのはこっちだから。そのほうがややこしくならないと思って」
「それでも、一度くらい私に話してくれてもよかったでしょう」
伯母も「離れて暮らしてるあなたに管理を頼むのも大変でしょう」と言いました。
母は納得できない様子でしたが、声を荒らげることはありませんでした。
すると伯父が、座卓の端にあった茶封筒を母の前へ置きました。
「これは、まあ……ハンコ代みたいなものだと思って。200万円入ってるから」
母の表情が変わりました。
「私、お金が欲しくてここに来たんじゃないよ」
伯父が「そういう意味じゃなくて」と言いかけましたが、母は書類を静かに押し戻しました。
「何も相談しないで決めて、最後にお金を出して判を押してっていうのは、私は嫌です」
そして、封筒にも触れないまま言いました。
「今日は判を押しません」
一周忌の電話に、母が返した言葉
帰りの車でも、母はしばらく黙っていました。
「200万円あれば納得するって思われてたのかな」
信号待ちで、母がぽつりと言いました。
「土地が欲しいわけじゃないの。ただ、家族なのに最初からいない人みたいに扱われたのが嫌だった」
それから半年ほどして、伯母から祖母の一周忌に来てほしいと電話がありました。
「親戚も集まるし、今回は来てくれない?」
母は少し黙ってから答えました。
「土地の話をするときは、私はいなくてもよかったんでしょう」
「そんなつもりじゃなかったのよ。面倒をかけたくなかっただけ」
「私は面倒でも、一緒に話したかったよ」
母はそれ以上責めることはせず、「一周忌には行きません」とだけ伝えて電話を切りました。
そのあと、私は母に「寂しくない?」と聞いたことがあります。
母は少し考えてから答えました。
「家族なのに、何も聞かされないほうが寂しかったよ」
あの日以来、母が以前のように実家へ足を運ぶことはなくなりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














