「うちのノブにかかっていたんですけど」名字を訂正しても間違える隣人。その後、通学路でも見かけるようになった
ノブにかかった紙袋には、知らない名字が書かれていた
隣の部屋に四十代くらいの女性が越してきて、ひと月ほど経ったころのことです。
ある朝、中学校へ行こうと玄関を開けると、ドアノブに小さな紙袋がかかっていました。中には個包装のクッキーと、二つ折りのカードが入っています。
「お母さん、これ何?」
母がカードを開き、少し困った顔をしました。
「……これ、うちじゃないよね」
カードには丸い字で「◯◯さんへ」と書かれていました。もちろん、うちの名字ではありません。
母は紙袋を持って隣のチャイムを押しました。すると、すぐに女性が出てきました。
「すみません。これ、うちのノブにかかっていたんですけど……」
「ああ、お菓子。かけておきました」
「でも、カードに◯◯さんって書いてあって。うちは◯◯ではないんです」
女性は一瞬きょとんとしたあと、首をかしげました。
「え?◯◯さんのお宅でしょう?」
「違いますよ」
母がもう一度そう伝えても、女性は紙袋を受け取ろうとしませんでした。
「そうなの?でも、せっかくだから食べてください」
結局、母は紙袋を持ったまま家へ戻りました。クッキーは誰も開けませんでした。
学校へ向かう道で、何度も見かけるようになった
それから数日後の朝、学校へ向かって歩いていると、後ろに人の気配を感じました。
振り返ると、少し離れたところを隣の女性が歩いています。
私は会釈をしました。
「おはようございます」
女性は何も言わず、こちらを見ただけでした。
たまたま行く方向が同じなのだと思いました。ところが別の日にも、アパートを出て少ししたところで女性を見かけました。
友達と一緒に歩いている朝にも、少し後ろに姿がありました。
「あの人、知ってる人?」
友達に聞かれ、私は小さな声で答えました。
「隣の人。うちの名字をずっと間違えてる人」
女性に声をかけられたり、走って追いかけられたりしたことはありません。ただ、何度か同じようなことが続くと、偶然だと思い切れなくなっていきました。
私は母に話し、少し遠回りになる別の道を使うようになりました。
それでも、アパートを出る時間帯に女性を見かける日がありました。
母が残し始めた、小さな記録
「今日もいた?」
帰宅すると、母が聞くようになりました。
「うん。今日はアパートの前にいた」
母はそれ以上騒がず、見かけた日と時間だけをカレンダーの裏に書き留めていきました。
何日か記録がたまったところで、母は管理会社に「隣の住人とのことで少し不安に感じている」と相談しました。
それですぐ何かが変わったわけではありません。
ところが、それからしばらく経ったある日、学校から帰ると、隣の部屋の前に段ボール箱が積まれていました。
女性が引っ越す理由は、私たちには分かりませんでした。
荷物が運び出されるなか、女性は廊下にいた母を見つけると、小さく頭を下げました。
「いろいろお世話になりました」
母も短く会釈しました。
すると女性は、帰り際にこう言ったのです。
「◯◯さんにも、よろしく伝えてくださいね」
母は返事をしませんでした。
最後まで、女性が誰を「◯◯さん」だと思っていたのかは分かりません。
ただ翌朝、玄関を開けたとき、ノブには何もかかっていませんでした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














