「ママ、おにぎり買わないの?」商品を指で押して戻す男性。3年経っても棚を避けてしまう理由
娘は、私の空いたままの手を見ていた
大学生の娘とコンビニに入ったときのことです。娘はおにぎりを二つかごに入れたあと、棚の前で立ち止まったままの私を見ました。
「ママ、おにぎり買わないの?」
「うん。今日はいいかな」
そう答えると、娘は少し首をかしげました。
「…前から思ってたんだけどさ。ママ、ここの棚だけ妙に避けるよね」
思わず娘の顔を見ました。
「気づいてたの?」
「うん。たぶん、けっこう前から。何かあった?」
からかうような言い方ではありませんでした。
私は少し迷ってから、「変な話なんだけどね」と、3年前に同じようなコンビニで見たことを話し始めました。
商品を取っては、指で押して戻していた
3年前の昼、店内はかなり混んでいました。
おにぎりとサンドイッチの棚の前に、一人の男性が立っていました。
私が近づくと少し横へずれましたが、棚から離れる様子はありません。
男性はサンドイッチを一つ取ると、包装の上から親指で真ん中を押しました。
パンがぐっとへこんで、指を離すと少し戻ります。
私は最初、「硬さでも見ているのかな」と思いました。
ところが、男性はその商品を買わずに棚へ戻し、隣の商品を取りました。
また押す。戻す。
その隣も、また同じです。
「え…また?」
思わず小さく声が出ました。
男性は何事もないように、おにぎりの段へ手を伸ばしました。
今度も包装の上から指で押し、少し形を確かめるようにして戻していきます。
鮭、昆布、ツナ、また鮭。
気づけば、私が見ただけでも10個を超えていました。
触られた商品が棚に並び続けているのを見ているうちに、急に気持ちが悪くなりました。
私はその場を離れ、レジにいた店員へ小声で話しかけました。
「すみません、ちょっといいですか」
「はい、どうされました?」
「あそこにいる方なんですけど……商品を指で押して、そのまま戻してるんです」
店員は棚のほうへ一度目を向けました。
「何個くらい見ましたか?」
「少なくとも10個は…。サンドイッチも、おにぎりもです」
自分が神経質すぎるのかもしれないと思っていたので、口に出すと少し緊張しました。
けれど店員は嫌な顔をせず、小さくうなずきました。
「ありがとうございます。少し確認してきますね」
「すみません。気になってしまって」
「いえ、教えていただいて助かります」
その言葉に少しほっとしました。
店員が棚のほうへ向かうのを見届けると、私は結局何も買わずに店を出ました。
その男性に店員が何を言ったのか、商品をどうしたのかは知りません。
外へ出てから振り返ることもできませんでした。
私がそこまで話すと、娘は黙ってかごの持ち手を握り直しました。
「…それは、ちょっと嫌かも」
「でしょ。別に全部のお店でそんなことがあるわけじゃないって、頭では分かってるんだけどね」
「でも、一回見ちゃったら気になるよね」
「そうなの。もう3年も経ってるのに」
それから私は、どの店に入っても、おにぎりの棚を見ると無意識に商品の表面を確認するようになりました。
ひとつでも不自然にへこんでいるものを見ると、その日は手を伸ばせなくなります。
あの男性の顔は、もうほとんど覚えていません。
それでも、商品を取って、親指で押して、何事もなかったように戻す。その手の動きだけは今でもはっきり覚えています。
「じゃあさ、今日は私が選ぶよ」
娘はそう言って棚の前へ戻りました。
包装を一つずつ軽く見ながら、二つのおにぎりを選びます。
「これなら大丈夫そうじゃない?」
差し出されたおにぎりを見て、私は少しだけ迷いました。
「……じゃあ、そっちの鮭」
「了解」
娘はそれをかごに入れました。
たった一つのおにぎりなのに、自分で選ぶより少しだけ気持ちが楽になったのを覚えています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














