「駅からこんなに歩くなんて聞いてない」ホテルのフロントで怒る宿泊客。頭を下げ続けたスタッフに責任者がした対応
頭を下げている人の前に、列ができていた
ホテルのロビーに入ってすぐ、いつもとは違う空気に気づきました。
フロントの端では、蝶ネクタイをした若い男性スタッフが何度も頭を下げています。向かいには、旅行かばんを足もとに置いた年配の夫婦が立っていました。
「駅からこんなに歩くなんて、聞いてないわよ」
「申し訳ございません」
「荷物だってあるのよ。こういうとき、送迎とか何かないの?」
女性の声は、少し離れた入口まで届くほど大きくなっていました。
若いスタッフは何か説明しようとしていましたが、女性はそのたびに言葉を重ねます。
「あなたに言っても仕方ないでしょう。責任者の方を呼んでちょうだい」
「かしこまりました。確認してまいりますので、少々お待ちください」
スタッフが奥へ下がると、夫婦はその場に残りました。
そのあいだにもチェックインを待つ人が増え、私も列の最後尾に並びます。別の女性スタッフが空いていたカウンターに入り、順番に受付を始めました。
「ずいぶん待たせるのね」
「今、呼びに行ったんだから少し待とう」
今度は夫が小さな声でそう言いましたが、妻は納得していない様子でした。
聞こえてきたのは、駅からの距離への不満だった
しばらくすると、紺色のスーツを着た年配の男性が奥から出てきました。どうやら責任者のようです。
若いスタッフがそばへ寄り、小声で事情を説明します。
「駅から思ったより距離があって、お荷物も多かったとのことで……」
責任者はうなずくと、夫婦の正面に立ちました。
「お疲れのところ、ご不便をおかけしました」
すると女性は、待っていたように話し始めました。
「大きな駅の近くだっていうから予約したのよ。こんなに歩くと思ってなかったの。荷物もあるし、着くころにはへとへとよ」
ホテルは駅から一本道を少し歩いた場所にあります。私は予約するときに地図を確認していたので、その距離自体には驚きませんでした。
ただ、大きな荷物を持って歩けば、思った以上に遠く感じることもあるのかもしれません。
責任者は言い返すことなく、静かに答えました。
「ご案内が分かりにくかったのであれば、申し訳ございません。お荷物はこちらでお預かりできます。また、駅へ向かわれる際の交通手段についてもフロントでご案内いたします」
女性は少し黙ったあと、足もとの旅行かばんを見ました。
「……じゃあ、荷物はお願いするわ」
「承知いたしました」
近くにいたスタッフが台車を持ってきて、かばんを載せます。夫婦はそのままエレベーターのほうへ向かっていきました。
若い男性スタッフは二人の姿が見えなくなるまで頭を下げ、それからようやく小さく息をつきました。
少し曲がっていたネクタイを直し、次に並んでいた客へ向き直ります。
「大変お待たせいたしました。こちらで承ります」
さっきまで何度も謝っていた人とは思えないほど、その声は落ち着いていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














