「一緒に課題やってもらえませんか」職場にいた大学生のアルバイト。だが、私が引いた線とは
相談の中身が、少しずつ変わっていった
塾講師をしていたころ、職場に大学生のアルバイトがいました。高校の英語教師を目指していて、勉強の進め方について私に相談してくることがよくありました。
最初のうちは、「この参考書、使いやすいですか」「こういう問題はどう勉強しましたか」といった質問ばかりでした。
私も答えられることならと思い、授業の合間に話をしていました。
ところが、しばらくすると頼まれる内容が少しずつ変わっていきました。
大学の課題について聞かれるようになり、ある日の授業後には、ノートと資料を抱えて私のところへやってきました。
「すみません。これ、明日までなんですけど……一緒に課題やってもらえませんか」
困ったような顔をしていたので、すぐに突き放す気にはなれませんでした。ただ、課題の中身までこちらが考えてしまったら、本人のためにもならないと思いました。
「書き方の相談ならできるけど、課題そのものを一緒にやるのはやめておこう」
彼は少し黙りました。
そこで私は、机の上にあった英語の問題集を指しました。
「その代わり、授業が終わったあとなら勉強の質問は見るよ。分からないところを持ってきて」
「……それでもいいですか」
「それなら大丈夫」
彼は少し照れたように笑って、「じゃあ、お願いします」と頭を下げました。
答えではなく、考え方を聞くようになった
それから彼は、勤務が重なった日の授業後に、ときどき問題集を持ってくるようになりました。
私が見るのは長くても十数分ほどです。答えを教えるのではなく、「どこまでは分かった?」「ここは何を聞かれていると思う?」と確認するだけでした。
最初のころは、問題を見るなり「これ、どうやるんですか」と聞いていた彼も、少しずつ質問の仕方が変わりました。
「ここまでは自分でやったんですけど、この先が分からなくて」
自分で考えた跡が、ノートにも残るようになっていました。
ある日、コピー機の前で別の講師が言いました。
「最近、あの子よく勉強してますね」
「前より粘るようになりましたね」
そう答えながら、私も少しうれしくなりました。
以前のように「手伝ってください」と丸ごと頼むことはなくなり、自分で考えてから質問を持ってくるようになっていたからです。
半年後に聞いた言葉
それから半年ほどたったころ、彼が顔を出しました。
アルバイトはすでに辞めていましたが、大学で教師になるための勉強を続けているそうです。
「久しぶりです。ちゃんと続けてますよ」
そう言いながら、以前より少し落ち着いた顔で笑っていました。
そして帰り際、ふと思い出したように言いました。
「あのとき、課題を手伝ってもらえなかったじゃないですか」
一瞬、嫌だったのかと思いました。
けれど彼は続けました。
「最初はちょっと困りましたけど、自分でやるしかないなって思えたんです。今は、そのほうがよかったと思ってます」
私は「そう」とだけ返しました。
助けることと、代わりにやることは同じではありません。
あのとき断ったことで彼が変わった、とまでは思いません。ただ、自分で進むきっかけの一つにはなったのかもしれない。帰っていく背中を見ながら、そんなことを思いました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














