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2026.08.24(Mon)

「また始まったね、練習」近所の子供の響く打球音。だが、突如打球音が聞こえなくなったワケ

「また始まったね、練習」近所の子供の響く打球音。だが、突如打球音が聞こえなくなったワケ

終わりの見えない音

休みの日の朝は、本を読むと決めていた。コーヒーを淹れて、窓際に座る。一週間のなかで、いちばん楽しみにしている時間だった。

その時間が消えたのは、近所の家が庭にネットを張ってからだ。

子どもが金属バットを振る。

当たると、高い音が閑静な住宅街いっぱいに広がる。金属の響きは、思っていたよりもずっと遠くまで届いてしまう。

「また始まったね、練習」

家族はそう言うだけで、誰も文句までは言わなかった。言っても仕方がないと、みんな分かっていた。

「窓、閉めるね」

つらかったのは、音の大きさよりも、見通しの立たなさだったと思う。

いつ始まるのか、どれくらい続くのか、まったく分からない。

静かなうちにと本を開くと、その日に限ってすぐに鳴りはじめる。音のすきまを探して暮らしている自分に、少し情けなくなった。

それでも、直接は言えなかった。子どもの練習を止めさせる人になりたくない。

ご近所づきあいは、この先も長く続く。数年、そうやって黙っていた。

回覧板と、通りかかった人

その休日も、音は鳴っていた。インターホンが鳴り、出てみると回覧板だった。

受け取って判子を押していると、持ってきた近所の人が、世間話のついでのように言った。

「公園のほうまで、あの音が届くんです」

咎める調子はまったくなかった。天気の話をするのと同じ声だった。

ただ、そのとき道の向こうから、練習をさせている家の人が歩いてきていた。

その人の足が、止まった。

回覧板の人は気づかないまま、「うちのあたりでも聞こえますよ」と笑って重ねた。

誰も責めてはいない。ただ、そこまで届いているという事実だけが、玄関先に残った。

「じゃあ、次のお宅にまわしますね」

私は何も言わなかった。謝る立場でもなければ、責める立場でもない。

ずっと黙ってきた側として、ただそこに立っていた。その人は小さく頭を下げて、自分の家のほうへ帰っていった。

次の休日、庭のネットは片づけられていた。

「休みの日は、公園でやらせています」

買い物の帰りに会ったとき、その人はそう言った。

広いほうが思い切り振れるのだと、どこか嬉しそうだった。練習をやめさせたわけではない。場所が変わっただけだ。

その朝、私は窓を開けたまま椅子に座った。遠くの公園から、風に混じってかすかに音が届く。

それはもう、休日の景色の一部でしかなかった。膝の上の本を、私は最初のページから読みはじめた。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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