「一千万円くらいはあると思うよ」母の言葉を信じた私。だが、妹が帰り際に明かした事情とは
雨樋の修理をきっかけに、お金の話になった
母の家の雨樋が外れたと聞いた。
父が建てた家で、今は母が一人で暮らしている。
居間に上がると妹も来ていて、座卓の上には修理業者から届いた見積書が置かれていた。
「今回はこれで済むけど、これから屋根とか給湯器とか、いろいろ出てきそうだね」
妹がそう言った。母も年を取ってきた。
家の修繕だけでなく、急な入院や介護が必要になる可能性もある。兄妹とも、そろそろ母のお金のことを一度整理しておいたほうがいいのではないかと考えていた。
台所から母が湯呑みを運んできた。
「お母さん、今の貯金ってどれくらい残ってる?」
少し聞きにくかったが、私が尋ねると、母はそれほど迷わず答えた。
「そうねえ。一千万円くらいはあると思うよ」
私は思っていたより多いことに驚いた。
「それなら、生活費とは別に二百万円くらい、家の修理や入院に備えるお金として分けておいたらどうかな」
母は湯呑みを両手で持ったまま、「そうね」とうなずいた。
妹も反対しなかったので、その日は、母名義の口座の中で使う目的を分けて整理しようという話になった。
門の前で、妹から聞いた本当の額
それから半月ほどたった日、私はもう一度母の家を訪ねた。
ところが母は、話を始める前から困ったような顔をしていた。
「この前のお金の話だけど、やっぱり今のままでいいよ」
「何か気になることでもあった?」
「ううん。私のお金なんだから、まだ自分で持っていたいだけ」
それ以上聞いても、母は「大丈夫だから」と繰り返した。
帰るころになって、妹と一緒に玄関を出た。門の前まで来たところで、妹が小さな声で言った。
「この前、お母さん、一千万円くらいあるって言ったでしょう」
「うん」
「本当は、そこまでないと思う」
妹は以前、母が入院したときに支払いの手伝いをしていて、そのときから預金額について母本人から聞いていたという。
「今残ってるのは、四百万円くらいだって。入院したときのために、これだけは残しておきたいって前から言ってた」
私はしばらく返事ができなかった。
「じゃあ、二百万円を分けるなんて無理だな」
「たぶん兄さんの前で、少なくなったって言いたくなかったんじゃないかな」
妹はそう言った。
母がどういう気持ちで一千万円と言ったのか、本当のところは分からない。
ただ、余裕があると思い込んで話を進めていた自分も、母の暮らしをきちんと見ていなかったのだと思う。
その後、お金を動かす話はやめた。家で大きな修理が必要になったときは、その都度、母と兄妹で相談することにした。
振り返ると、母の貯金額を知ったことよりも、「大丈夫」と言いたがる母の言葉をそのまま受け取らないことのほうが大切だったのかもしれない。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














