「説明が足りなかったんじゃないの?」ドリンクバーで客と食い違っていた質問。最後まで納得できなかったワケ
抽出の音が終わるまでの、短いやりとり
そのファミリーレストランでアルバイトを始めて、三年目の夜だった。
ドリンクバーの機械は古く、コーヒーが落ちきるまで二十秒ほどかかる。
その音の長さにも、すっかり慣れていた。
七十代くらいの女性客が、機械の前で私を呼んだ。
「ねえ、これって、ここ押せばいいの?」
「はい。カップを置いて、この真ん中のボタンです」
「濃さも選べるの?」
「選べますよ。今は真ん中になっています。濃いほうがよければ、こっちです」
「ああ、そうなのね。ありがとう」
女性がボタンを押すと、機械が低い音を立ててコーヒーを落とし始めた。
私はそれを確認して、次のテーブルへ向かった。連れの男性は少し離れたところで待っていた。
それからしばらくして、閉店まで一時間を切ったころだった。皿を下げていると、同じ女性にもう一度呼び止められた。
「私、さっき聞いたわよね?」
女性はドリンクバーの前で、少し険しい顔をしていた。
「ちょっと。氷、ここから取るんじゃなかったの?」
指さした先を見て、私は一瞬言葉に詰まった。
そこは飲み残しや氷を流すための受け皿だった。
「あ…そこは、飲み残しを流すところなんです。氷はこちらです」
私は横にあるストッカーの蓋を開けた。中には氷が入り、トングも置かれている。
すると女性は、納得できないように眉を寄せた。
「でも私、あなたに聞いたじゃない」
「え?」
「さっきよ。氷はどうするのって聞いたでしょう?」
私は朝からのやりとりを思い返した。
「すみません。私が聞かれたのは、コーヒーの入れ方と濃さのことだったと思います」
「そんなはずないわよ。私、ちゃんと聞いたもの」
女性の声が少し大きくなった。
そこへ連れの男性も近づいてきた。
「説明が足りなかったんじゃないの?」
責めるように言われ、私もさすがに黙ってはいられなかった。
「コーヒーについてはご案内しました。でも、氷のことは聞かれていません。聞かれていたら、こちらをご案内しています」
自分でも少し強く言ったと思った。ただ、声だけは大きくしないようにした。
女性はストッカーの中をのぞき込み、少し黙った。
「…じゃあ、ここから取ればいいのね」
「はい。こちらのトングを使ってください」
男性もそれ以上は何も言わず、手にしていた伝票へ目を落とした。
女性がトングを持ち上げると、氷がグラスの中に落ちた。
カラン、と店内に音が響いた。
そのあと二人は会計を済ませ、そのまま店を出ていった。謝罪があったわけでも、こちらが納得できる言葉をもらえたわけでもない。
私はドリンクバーへ戻り、受け皿に残っていた氷を流した。
少し離れたところで、またコーヒーの抽出音が始まった。いつもなら気にも留めない音なのに、その夜だけは妙に長く聞こえた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














