「ぼく、走るの遅いよ」公園でひとりでいた男の子。だが、男の子を輪に入れた、やさしいひと言
遊具の上に、ひとりで立っていた子
家族で少し大きめの公園に行った日、遊具の上にひとりで立っている男の子がいた。
別の子が階段を上ろうとすると、男の子は少し身を引いた。
「だめ。こっち来ないで」
もう一人が近づいたときにも、小さな声で言った。
「今は来ないでってば…」
怒鳴っているわけではなかった。怒っているというより、どうしたらいいのか分からず困っているように、私には見えた。
近くまで行っていた娘も足を止め、私のところへ戻ってきた。
「お母さん、あの子、怒ってるのかな」
「どうだろうね。何か嫌なことがあるのかもしれないね」
しばらくすると、男の子が広場の向こうへ大きく手を振った。
「おーい!ねえ!」
視線の先には、大人がひとりベンチに座っていた。
手元を見ていて、男の子が呼んでいることには気づいていないようだった。
付き添いの人なのだろうか。私には事情までは分からない。男の子はしばらくして手を下ろすと、また遊具の上に立った。
何度断られても、急かさなかった子
少しして、広場で遊んでいた子がひとり走ってきた。遊具の下で立ち止まり、上を見上げる。
「ねえ、一緒に遊ぼう。これから鬼ごっこするんだ」
男の子は手すりを握ったまま、首を横に振った。
「……いい。やらない」
「そっか」
その子はいったん仲間のところへ戻っていった。
しばらくして、みんなが鬼ごっこを始める前に、また遊具のそばを通った。
「やっぱり、一緒に遊ぼうよ」
男の子は少し迷ってから答えた。
「ぼく、走るの遅いよ」
「え、ぼくも遅いよ。すぐ捕まると思う」
男の子は笑わなかったけれど、さっきのように「来ないで」とも言わなかった。
誘った子も急かさず、その場で少し待っていた。
やがて仲間から「始めるよー」と声が飛んでくる。
その子は広場のほうを振り返ってから、もう一度だけ男の子を見上げた。
「ね、一緒に遊ぼう。嫌だったら途中で抜けてもいいから」
男の子は少し考えてから、手すりから手を離した。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
そう言って階段を降り、その子と並んで広場へ向かった。
やがて「いーち、にーい」と数える声が聞こえ、子どもたちが一斉に走り出した。
さっきまでひとりで立っていた男の子も、その中を走っていた。少しすると、こちらまで聞こえるほど大きな笑い声を上げた。
その声に気づいたのか、ベンチにいた大人も顔を上げた。子どもたちのほうをしばらく見てから、荷物を持って近くまで歩いてきた。
帰り道、娘がふと思い出したように言った。
「あの男の子、最後すっごく笑ってたね」
「うん。楽しそうだったね」
「遅いって言ってたのに、けっこう速かったよ」
「見てたの?」
「見てたよ。ずっと逃げてたもん」
娘はそう言って笑った。
私がいちばん覚えていたのは、男の子の速さではなかった。
一度断られても、二度断られても、急かさずに「一緒に遊ぼう」と声をかけた、あの子の姿だった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














