「満室なんか知るか、何とかしろ」温泉旅館で部屋の格上げを迫った男性。だが、支配人が明かした部屋選びの理由
部屋の変更を求めて、フロントを離れない男性
週末、夫と少しいい温泉旅館を訪れたときのことです。
ロビーのフロントでは、50代くらいの男性客がチェックインの手続きをしていました。
対応しているのは、着物姿の若い女性スタッフです。
男性の後ろにはすでに1組が待っていて、私たちもその次に並びました。
ところが、いつまでたっても列が進みません。
男性は部屋の鍵を受け取ろうとせず、案内の紙を指でたたいていました。
「この部屋、下の階だろ?前にも泊まったけど、眺めが悪いんだよ」
「申し訳ございません。あいにく本日は満室でございまして…」
「いや、いちばん上に広い部屋があるだろ。あそこに替えてくれよ」
「そちらの特別室も、本日はご予約で埋まっております」
男性は納得できない様子で、台に片ひじをつきました。
以前にも泊まったことがあるから、部屋を替えてもらえるはずだ。
そんな口ぶりで、何度も要求を繰り返します。
「いつも利用してるんだから、それくらい何とかならないの?」
スタッフが事情を説明しようとしても、男性は最後まで聞こうとしません。
「今回のお部屋は、以前とは…」
「だから、上の部屋がいいって言ってるんだよ!」
ついには、ほかの客の予約を動かせばいいと言い出しました。
「満室なんか知るか、何とかしろ」
男性が手のひらで台をたたくと、ロビーに大きな音が響きました。
そんなやり取りが続くうちに、20分が経過。気づけば待っている客は5組に増えていました。
困り果てた様子のスタッフは、男性が話を止めたところで内線を取り、短く何かを伝えました。
支配人が見せた、前回の宿泊で残された一枚
まもなく奥から、60代くらいの支配人が出てきました。
支配人はスタッフの横に立ち、男性に丁寧に頭を下げました。そして、持っていた一枚の用紙をフロントの台に置いたのです。
それは、男性が前回の宿泊時に書いた意見用紙でした。
「以前お泊まりいただいた際に、駐車場側のお部屋は眺めがよくないと、ご意見をいただいておりました」
「ああ、そうだよ。だから今回こそ、いい部屋にしてほしいんだよ」
すると支配人は、落ち着いた声で続けました。
「はい。ですので今回は、同じ下の階でも、お庭がいちばんよく見えるお部屋をご用意しております」
「……え?」
「先ほどから係の者も、そのことをご説明しようとしていたのですが……」
男性は用紙に視線を落とし、しばらく黙っていました。
やがて、気まずそうに口を開きます。
「だったら、最初からそう言ってくれればいいだろ」
「何度かお伝えしようとしたのですが、お話を最後まで聞いていただけなかったようで……」
支配人の言葉に、男性は何も返しませんでした。
支配人が横の小さな台へ案内すると、男性はふと後ろを振り返りました。
そこには、チェックインを待つ5組の客が並んでいます。
列の後ろのほうから、小さな声が聞こえました。
「ちゃんと説明、聞けばよかったのにね……」
男性は視線を落とし、黙ったままかばんを持ち上げました。
そして横の台に移り、支配人から鍵を受け取りました。
先ほどまでロビーに響いていた大きな声は、もう聞こえません。
「大変長らくお待たせいたしました」
女性スタッフが列の先頭にいた客に頭を下げ、ようやくチェックインが再開しました。
私たちも夫と顔を見合わせ、ほっとして一歩前へ進みました。
同じ下の階でも、部屋によって見える景色は違います。男性が最初からスタッフの説明を聞いていれば、あんなに長く言い争うこともなかったのかもしれません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














