「子どもにヤジを飛ばすのはやめろ」運動会で走る児童に「転べ」と叫び続けた男性。だが、ひと声で黙りこんだ瞬間
児童席のうしろから聞こえたヤジ
小学生のころ、運動会での出来事です。その日はよく晴れていて、校庭には子どもたちを応援する保護者の声が響いていました。
私は自分の出番がない時間、体操服のまま児童席に座り、ほかの学年の競技を見ていました。
児童席のすぐうしろには、立って応援する保護者が並んでいます。その中には、腕を組んで静かに競技を見守っているお父さんもいました。
次の競技が始まり、子どもたちが一斉に走り出したときです。
「下手くそ!」
突然、うしろから大きな男の人の声が聞こえてきました。
驚いて振り返ると、保護者の列にいた男性が、口もとに手を当てて叫んでいました。
前の席の女の子も振り返り、不安そうに私に聞きました。
「ねえ、なんであんなこと言うの…?」
「分かんない。走ってる子の家の人なのかな……」
そう答えたものの、私にも男性が誰なのかは分かりません。
男性はその後も競技を見ながら、大声を出し続けました。
「転べー!ほら、転べー!」
そんなヤジが何分も続き、周囲の声援まで聞こえにくくなっていました。
近くのお母さんたちが顔をしかめると、男性は笑いながら言いました。
「いやいや、ちょっとからかってるだけだって」
けれど、児童席にいる私たちには、少しも面白くありませんでした。
静かに見ていたお父さんが口を開いた
児童席の子どもたちは、何度も男性のほうを振り返っていました。私も走っている子がかわいそうで、落ち着かない気持ちになっていました。
そのときです。
先ほどまで腕を組んで競技を見ていたお父さんが、男性のほうへ向き直りました。
「おい」
低い声に、男性が振り返ります。
お父さんは男性の顔をまっすぐ見て、はっきりと言いました。
「子どもにヤジを飛ばすのはやめろ」
男性は一瞬、驚いた顔をしました。
「いや、別に……。からかってるだけで……」
すると、お父さんは児童席のほうに目を向けました。
「からかってるつもりでも、この子たちには怒鳴り声にしか聞こえないんだよ」
つられて男性も児童席を見ると、何人もの子どもたちが不安そうな顔で見上げていました。
男性は何か言いかけましたが、結局、言葉を続けませんでした。
それまで口もとに当てていた手を下ろし、競技のほうへ向き直ります。
その後、男性がヤジを飛ばすことはありませんでした。
やがて、最後まで走りきった子がゴールに飛びこむと、周囲から大きな拍手が起こりました。
前の席の女の子が私に笑いかけます。
「よかったね」
「うん、本当によかった」
振り返ると、注意したお父さんも、何事もなかったように子どもたちへ拍手を送っていました。
大声で言い返すのではなく、必要なことをきっぱり伝えたあのお父さんの姿は、大人になった今でも覚えています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














