「持ち主の方はいませんか」運動会の最前列に三脚を置いて消えた母親。何度呼ばれても戻らず、本部で聞いた一言
最前列に残された、持ち主のいない三脚
晴れた運動会の朝、私はわが子の姿を少しでもよく見ようと、早朝から場所取りの列に並んでいました。
開門すると、私より前にいた母親が真っ先に最前列へ向かい、三脚を広げて大きなビデオカメラを取りつけました。
ところが、設置を終えると、そのままどこかへ行ってしまったのです。
私は三脚の後ろに敷物を広げました。すぐに戻ってくるのだろうと思っていましたが、競技が始まっても母親は現れません。
三脚とカメラは最前列の真ん中を占めたまま。後ろの保護者たちは、少しでも見ようと首を伸ばしたり、腰を浮かせたりしていました。
「すみません、もう少しかがんでもらえますか」
周囲ではそんな声も聞こえてきました。しかし、何より視界を遮っていたのは、誰も使っていない三脚でした。
しばらくすると、本部のテントから係の先生の声がマイクで流れました。
「最前列に三脚とカメラを置かれた方、いらっしゃいますか。持ち主の方はいませんか」
何度呼びかけても、母親は戻ってきません。
とうとう係の先生が最前列まで来て、三脚とカメラを本部へ運んでいきました。空いた場所には後ろの保護者たちが少しずつ詰め、私も前の列へ移ることができました。
本部で三脚を受け取った母親に、先生が告げた一言
わが子の学年の出番が近づいたころ、ようやくあの母親が戻ってきました。
ところが、自分の三脚がなくなっていることに気づくと、最前列に座っている保護者たちを見下ろし、腕を組んだのです。
「あの、ここ、私が取っていた場所なんですけど」
近くにいた父親が、困った顔で答えました。
「ずっと三脚だけだったので…。後ろの人たちも見えなくて」
すると母親は、納得できない様子で声を強めました。
「でも、私、朝早くから並んだんですよ。勝手に動かさないでください」
そのとき、本部のほうから係の先生が歩いてきました。
「あ、三脚の持ち主の方ですね。何度もお呼びしたんですが、いらっしゃらなかったので。本部でお預かりしています」
「えっ、でも、早く来て場所を取ったんですけど……」
「申し訳ありませんが、荷物だけの場所取りはご遠慮いただいているんです」
母親は言い返そうとしましたが、先生の説明を聞いて口を閉じました。
「それより、うちの子、もうすぐ走るんです。カメラを返してもらえますか」
先生に案内され、母親は急いで本部のテントへ向かいました。
テントは観覧席のすぐ脇にあり、前の列に移った私からも、母親と先生のやり取りが見える距離でした。
母親は先生から受け取りの用紙を渡され、名前を書きました。そして三脚とカメラを受け取った、まさにそのときです。
パンッ!
校庭に、競技開始を知らせるピストルの音が響きました。
先生が校庭へ目を向け、母親に声をかけました。
「あっ、始まりましたよ。お子さんの学年の競技ですよね」
「えっ……うそ、もう?」
母親が慌てて振り向いたときには、子どもたちはすでにゴールへ向かって走っていました。
カメラを構える余裕もなく、母親は三脚とカメラを抱えたまま、その場に立ち尽くしていました。
一方、最前列では保護者たちが声援を送っています。私も夢中でわが子を応援し、走り切る姿を見届けました。
誰よりも早く来て場所を取っていたはずの母親が、肝心のスタートに間に合わなかったことには、なんとも複雑な気持ちになりました。
周りの人への配慮を忘れずに観覧することの大切さを、あらためて感じた運動会でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














