「俺は彼女が言うことしか聞かないから」女性社員ひとりに執着し始めた不機嫌な先輩→便利使いされていく職場のため息
同じ部署で繰り返される、不機嫌な先輩のひと言
その人は、廊下を歩く足音だけで分かる人でした。
朝、エレベーターから降りてきた瞬間に、もうフロアの空気が一段下がるのです。
声をかければ目を逸らされ、書類を差し出せばペンの先で押し返される。
女性社員のほぼ全員に、理由のない悪態をつき続ける不機嫌な先輩。
仕事でミスをしたとか、挨拶をしなかったとか、心当たりが何かあるわけでもない。
ただ何となく、女性であるという一点だけを理由に、毎日険のある言葉を投げてくる人でした。
そんな彼が、入社三年目の女性社員ひとりに対してだけ、まるで別人のように振る舞うようになったのは、半年ほど経った頃でしょうか。
彼女が朝の挨拶をすると、笑顔で返す。
彼女が困った顔で書類を持ってくれば、丁寧に説明し始める。
同じフロアにいる中堅の主任が、無言で目配せしてきたのを今でも覚えています。
気に入られた彼女が「便利」を覚えた瞬間から
はじめのうち、彼女自身も少し戸惑っていたようでした。
付き合う気はない、と廊下ですれ違うときに小声でこぼしていたのを聞いたこともあります。
けれど、その線引きをしたうえで、彼女は別のことを考え始めたのです。
「俺は彼女が言うことしか聞かないから」
不機嫌な先輩は、いつしか口癖のようにそう言うようになりました。
本来であれば誰の頼みでも対応すべき業務を、彼女からの依頼以外は受けようとしない。
逆に、彼女の口から出た指示には嫌な顔ひとつせずに動く。
その仕組みに、彼女が気づいてしまったのです。
気づけば、彼女のやりたくない作業が、先輩の口を経由してこちらの机に飛んでくるようになりました。
面倒な顧客への謝罪電話、期日が迫った修正依頼、終業間際の追加入力。
渡される側としては、断る理由がないわけではありません。
けれど、そこで突き返せば、彼の機嫌をさらに損ね、フロア全体の空気が悪くなる。
結局、私や席の近い同僚が、ため息を呑み込みながら受けることになるのです。
女性社員のほぼ全員から悪態の対象だった人が、ひとりの女性に固執した結果、そのひとりが部署全体を都合よく動かす道具を手にしてしまった。
そういう構図が、あのフロアでは何ヶ月も静かに続いていました。
その後、私の部署異動が決まり、あの空気から離れることはできました。
けれど、引き継ぎを終えて席を立った最後の日、机の上に残った付箋の文字を眺めながら、あの場の仕事は本当に仕事だったのだろうかと、いまでも胸の奥でため息が漏れるのです。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














