「危機感を持て」「自発的に考えろ」抽象的な指摘ばかりしてくる部長。だが、会議で本音をぶつけてみた結果
指示だけで動かない部長
毎週の会議で繰り返されていたのは、決まって同じような言葉だった。
「危機感を持て」「自発的に考えろ」「もっとスピード感を出してほしい」。
IT系のシステム開発会社に勤めて十数年、それなりにキャリアを積んできた。異動先のチームに新しく着任した開発部長が、そういうタイプだった。
発言の歯切れは悪くない。ただ、言葉の裏に具体的な内容がない。
「どうすれば主体的とみなされるのか」「スピードを上げるためには何を削ればいいのか」といった問いに、明確な答えが返ってきたことは一度もなかった。
技術的な議論になると急に曖昧な物言いが増え、仕様の確認を求めれば「それを考えるのが現場の役割」と返される。
チームメンバーは互いの顔を見合わせながら、それぞれ推測で動くしかなかった。
そのうちチームの雰囲気が重くなり、メンバー同士で「また同じこと言われたね」と苦笑いを交わす場面が増えていった。誰もが口には出さなかったが、疲弊は着実に積み上がっていた。
飲み込み続けた問いを、口に出した
そのミーティングは、月曜の朝に設定されていた。
部長が資料を目の前に広げ、口火を切った。
「このプロジェクト、スピード感が全然足りてないんだけど」
何度目かの同じ言葉だった。
「少し確認させてください」と手を挙げた。
「結果を出せというなら教えてください」
「今のタスクのどれを優先して、どれを後回しにすべきか。基準がないと、チームとして動けないので」
部長が視線を手元の資料に落とした。
「それは……現場の状況を見て判断してほしい」
「判断するための軸を示してもらえますか。チーム全員が同じ方向を向けるように」
答えは来なかった。会議室がしばらく静まり返った。
向かいに座っていたチームリーダーが、小さく息を吐いた。何も言わなかったが、その表情が全てを語っていた。
変わらなくても、変わったもの
会議の後、すぐに何かが改善されたわけではなかった。
部長のスタイルは以前と変わらなかったし、抽象的な指示が消えることもなかった。
それでも、言えたことには意味があった。チームの中で「おかしいと感じているのは自分だけではない」という確認ができた。
声に出さなければ、ただ飲み込むだけだったはずの疑問を、丁寧に言葉にできた。
問い返した後、帰り際に別のメンバーが「あの一言、ちゃんと伝わってたよ」と声をかけてくれた。
特別なことが起きたわけではない。それでもチームの空気が、あの瞬間を境に少しだけ違うものになった気がした。
あの静まり返った会議室の空気は、今も鮮明に残っている。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














