「痛いんだけど」朝の通勤電車で肘を張り続けた隣の乗客。だが、降り際にスマホを落とした瞬間
黙って縮こまるしかなかった
座席に座ってすぐ、隣の人の肘が少し張っているのに気づいた。
(痛いんだけど)
朝の混雑だから仕方ない部分もある。最初はそう思って体を内側に傾けた。でも少し距離を空けると、また少しずつ肘が戻ってくる。
相手はスマホに集中していて、こちらのことは見えていないらしい。何度か角度を調整しながら、それでも何も言えないまま時間が過ぎた。
(声に出すほどのことじゃない)と頭では思っていた。
でも、何も言えない自分にも苛立ちが募っていった。こちらがどれだけ縮こまっても、向こうの肘は自然に戻ってくる。
その繰り返しに、疲れてきた。こんな小さなことで消耗している自分にも、うんざりした。
しばらくして、アナウンスが流れた瞬間に隣の人がこちらをちらりと見た。そしてため息まじりに、小さく舌打ちをした。
「まるで私が悪いみたいな視線だった」
何もしていない。動いているのは向こうの肘だ。それなのに、なぜか責められているような気分になった。背中が強張り、余計に何も言えなくなった。朝からこんな気分になるのかと思うと、どこか悔しかった。
スマホが床に落ちた音
次の駅に着くと、隣の人が立ち上がった。
その拍子にスマホが手からすべり、床に落ちた。硬い音が車内に響いた。
近くに立っていた人も、向かいに座っていた人も、誰も動かなかった。自分も何もしなかった。拾おうと屈む相手を、ただ静かに見ていた。
スマホを手に取った相手は画面を一度確かめてから、扉の外へ消えた。
それだけのことだった。でも、なぜか胸の奥がすっきりした。誰かに何かをしたわけでも、言い返したわけでもない。それでも、あのモヤモヤが消えていた。
電車が動き出した朝
扉が閉まり、電車がゆっくりと動き出した。隣の席が空いた。少し余裕を持って腰を落ち着けた。背もたれに体を預けると、ずっと張っていた肩の力が抜けていった。
さっきまで胸につかえていたものが、気づいたらなくなっていた。縮こまったことも、舌打ちにびくりとしたことも、もうどうでもよかった。
言い返さなくても、世界は意外とちゃんと帳尻を合わせてくれる。
そう思いながら、いつもより少し軽い気持ちで窓の外を眺めた。駅のホームに人が集まっては流れていく。
それを見ながら、今日一日が始まっていく感じがした。何も言わなかったけれど、それでよかったのだという気がした。
肘の圧力も、舌打ちも、今となっては遠い出来事のようだった。黙って縮こまっていた自分のことも、責めなくていいと思えた。こうして朝が始まっていく。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














