「テキパキ出来ないなら転職しろ」お金を投げた客。去った後、他の客の一言に救われた瞬間
ドア越しに聞こえた怒鳴り声
自動ドアが開いた瞬間、店の奥まで届く声が飛んできました。
「さっさと会計しろよ、幾らなんだ」
惣菜の棚の前で、足が止まりました。レジでは、上着を腕にかけた男性がカウンターに身を乗り出しています。
「八百六十円でございます」
若い店員がそう言い終わらないうちに、握った小銭がカウンターへ放られました。硬貨が跳ねて、床へ散っていきます。
「落ちたぞ。拾うのが仕事だろ」
店員はレジの横から出てきて、しゃがみ込みました。一枚ずつ、指先で拾い上げていきます。離れた場所からでも、口元がこわばっているのが見えました。
「ちょうど、お預かりいたします」
男性は袋を引ったくると、出口の前で立ち止まって振り返りました。
「テキパキ出来ないなら転職しろ」
ドアが閉まりました。店内に残ったのは、冷蔵ケースの低い音だけです。
列が店員に返した言葉
私はレジに商品を置きながら、迷った末に声をかけました。
「変わり者はどこにでもいるものだから、気にしないで頑張ってください」
立派なことを言ったわけではありません。何も言わずに帰るのが、なんとなく気まずかったのです。
「……恐れ入ります」
返ってきた声が、少しだけ低く揺れました。
会計を終えて横にずれると、次に並んでいた作業着の男性が、こちらを見ないまま言いました。
「気にしないでいいよ。あんなの、たまたまだから」
その後ろの、自転車の鍵を指に引っかけた学生が続きます。
「俺も見てました。全然、悪くないっす」
さらに後ろの女性が、かごを置きながら言いました。
「ここのレジ、いつも気持ちがいいので来てるんですよ」
誰も、帰っていった男性のことは口にしませんでした。悪口も、ため息も出ません。順番が来た人が一言だけ置いて、袋を提げて出ていきます。それが、列の後ろへ順に伝わっていきました。
「……ありがとうございます」
店員は一度だけ深く頭を下げました。
そのまま、しばらく顔を上げませんでした。目を伏せて、レジの縁を握っています。
外へ出て振り返ると、ガラスの向こうで店員が背筋を伸ばしていました。次の客に向かって、はっきりと頭を下げています。
その声は、閉まったドアの外まで届いていました。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














