tend Editorial Team

2026.06.18(Thu)

「工場閉まるんで、もらってよ」期限が明日の豆腐6丁を持ってきた住人。後日、本音をぶつけてみると

「工場閉まるんで、もらってよ」期限が明日の豆腐6丁を持ってきた住人。後日、本音をぶつけてみると

受け取ってしまった六丁

一人暮らしのマンションでの、お盆前のこと。

インターホンの音に出ると、向かいの部屋の男性がビニール袋を手に立っていた。

「これ、いる人いないし」

「工場閉まるんで、もらってよ」

断る間もなく押し付けられて、つい受け取ってしまった。

部屋に戻って中を見ると、入っていたのは豆腐が六丁。表示を確認して固まった。

「明日まで……?」

消費期限は翌日。冷蔵庫はお盆の買い出しで満杯。一人で六丁など、どうやっても無理だった。

「明日までに、六丁……」

朝も昼も夜も豆腐にしたところで、とても追いつかない。

冷蔵庫にも入りきらず、結局ほとんどを泣く泣く処分した。捨てながら、もやもやだけが胸に残った。私の家は、工場の余りものの捨て場ではない。

玄関先で引いた一線

数日後、またインターホンが鳴った。画面には、同じ男性と、同じような袋。

「今度は貰いすぎちゃってさ」

来た、と思った。

前回は受け取って捨てるしかなかった。

同じことを繰り返したくはない。今度は袋を受け取らずに、玄関のドアを開けたまま、できるだけ穏やかに、はっきりと向き合った。

「ありがとうございます。でも私一人だと、いただいても食べきれないんです」

「だから、次からは気にしないでくださいね」

声は少し緊張していたけれど、笑顔だけは崩さなかった。

男性は虚を突かれたように口を開けた。袋を持つ手が、宙で止まる。

「え、あ……そう、なんだ」

「すみません、せっかくなのに」

私が頭を下げると、彼は「いや、こっちこそ」と小さくつぶやき、逃げるように自分の部屋へ引っ込んでいった。

それからの距離感

あの日を境に、玄関のチャイムが鳴ることはなくなった。あれほど続いた突然のおすそ分けが、ぴたりと止んだのだ。期限間際の食材を押し付けられて、こっそり処分するあの罪悪感ともお別れだった。

廊下で顔を合わせれば、向こうから軽く頭を下げてくる。

「どうも」

「こんにちは」

それだけ。袋を提げて立っていた頃の押しの強さは、もうどこにもなかった。

ただの隣人どうしの、ちょうどいい距離に落ち着いた。

角を立てたくなくて、私はずっと笑って受け取っては捨てる、を繰り返していた。けれど一度はっきり伝えただけで、向こうは驚くほどすんなり引いてくれたのだ。

「最初から、こう言えばよかったんだ」

受け取って捨てる日々の間は、自分が善意の形をしたゴミ箱にされている気がしてならなかった。たった一度きちんと線を引いただけで、この身軽さだ。嫌われるのが怖くて飲み込んでいた言葉を、口にしてよかった。

※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.08.04(Tue)

「もう少し待って、2万は返す」外食写真を上げ続ける兄に、私が振込の記録を見せて全額回収した瞬間
tend Editorial Team

NEW 2026.08.04(Tue)

「なんで19万円だけ抜いたの?」貯金を勝手に使い込んだ夫。後日、義両親が頭を下げた結果
tend Editorial Team

NEW 2026.08.04(Tue)

「1000円で十分でしょ」うちの子へのお年玉をケチった妹。だが、母の一言で状況が一変
tend Editorial Team

RECOMMEND

2026.07.13(Mon)

「やっぱり、別の昼飯がよかったな」気分で予定を変える夫。だが、妻が提示したルールで夫の態度が変わった
tend Editorial Team

2026.07.20(Mon)

【漢字間違い探し】「暑」の中に1字だけ違う漢字が隠れている!じっくり探さないと絶対気づけない、あなたの観察力を試す脳トレ
tend Editorial Team

2026.03.02(Mon)

「この卵、広告の品で安いはずでしょ!」とレジで揉めてる客。だが、店員の正論をうけ逃げるように去った話
tend Editorial Team