「お友達が来ていたわね」いつも親切な隣人。だが、一度も話していない友人の名前を知っていた理由に絶句
廊下で交わす何気ない挨拶
そのマンションで隣に住んでいたのは、いつも身ぎれいにしている60代の女性だった。
一人暮らしで、会えば必ず笑顔で挨拶をしてくれる。
引っ越してきたばかりの私にも親切で、正直、良いお隣さんに恵まれたと思っていた。
だからその日、彼女の口から出た言葉の意味を、すぐには理解できなかったのだ。
その週、私は久しぶりの休みを取り、昔からの友人を自宅に招いた。他愛のない話で盛り上がり、夕方に見送るまで、あっという間の一日だった。
玄関先で手を振って別れたのが、その日の記憶に残る、最後の穏やかな光景だった。
翌々日、郵便受けの前で隣人と一緒になった。
彼女はいつもの調子で、にこやかに話しかけてきた。
「一昨日は玄関に、お友達が来ていたわね」
玄関のドアの開け閉めで気づいたのだろう、とそのときは思った。壁の薄いアパートではよくあることだと、自分に言い聞かせた。私は軽く会釈をして、それだけのつもりだった。
ところが、彼女は笑顔のまま、友人の下の名前を親しげに呼んで、こう続けたのだ。
「⚪︎⚪︎さん、昔からきれいな子ねえ」
私は、言葉を失った。
扉の外にいた気配
その友人の名前を、私は彼女に話したことなど一度もない。会話に出したことすら、まるで記憶になかった。
なのに、どうして。心臓が嫌な音を立てた。私はなんとか平静を装って、その場をやり過ごした。けれど、家に戻っても胸のざわつきは消えなかった。
思い切って、私はその夜のうちに友人へ連絡を取った。あの日、来たときに変わったことはなかったかと。
すると友人は、ためらいがちにこう答えた。
「あなたを呼ぼうとエントランスのインターホンを押したとき…真後ろに、おばあさんが黙って立っていて、ちょっと怖かった」
そこで、すべてがつながった。私たちは集合玄関のインターホン越しに、名前を呼び合いながら話していた。
その背後に、あの隣人がぴたりと寄り添うように立ち、一言も発さず、耳をそばだてていたのだ。
いつも通りの、あの柔らかい笑顔。
その内側で、彼女は他人の会話を静かに拾い集め、名前まで頭に刻みつけていた。
私が何時に帰り、誰を招くのか。どこまで見られ、どこまで聞かれていたのか、今も見当がつかない。
あの人はきっと、私がいつ帰り、いつ出かけるのかを、廊下の向こうから毎日数えていたのだろう。挨拶のたびに向けられていた笑顔の意味を、私は長いあいだ、まるで取り違えていたのだ。
あの笑顔を思い出すたび、私の背筋には、今でも冷たいものが走る。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














