「張り紙を貼っても、夜のうちにまた出している」引っ越してきた住民がゴミ出しルールを守らなかった。だが、地道な活動が伝わった瞬間
一番遠い家が、一番片付けている
ゴミ捨て場は、もともと3軒で使う場所だった。
我が家はその中でも一番遠い。それでも30年、向かいのお宅と交代で箒を入れ、当たり前の顔をして使わせてもらってきた。
一番近い1軒が建物を売却し、更地になったところに分譲住宅が建って、新しい方々が越してきたのは、そのあとのことだ。
まだ挨拶らしい挨拶もできないうちに、ゴミ捨て場の様子だけが先に変わっていった。
ほどなく、朝の道に袋の中身が散るようになった。カラスに破られたのだ。収集は朝からなのに、袋は前の晩のうちから置かれている。
ひと晩そこにあれば、鳥に見つからないほうが難しい。
向かいのご主人が、手書きの紙を貼った。
朝に出してください、と丁寧な字だった。角を几帳面にそろえて貼ってあるのを見て、私は少し胸が痛んだ。
それでも翌朝、袋はまた破れていた。
「張り紙を貼っても、夜のうちにまた出している」
ご主人はため息をついた。紙をもう一枚貼るべきか、それとも直接お願いしに行くべきか。私にも返す言葉がなかった。
ゴミ捨て場に近い家の方々が出てくることはない。
散らばったものを拾い集めるのは、決まって一番遠い私たちだった。
目の前が汚れている家ほど動かず、被害の少ない家のほうが箒を持っている。妙な話だと思った。
「まあ、うちは時間がありますからね」
セミリタイアの身だ。そう言って笑ってみせたが、腹の底は正直すっきりしない。
かといって、遠いのに使わせてもらっている引け目もある。強く言えないまま、軍手ばかりが汚れていった。
尋ねられて、はじめて分かったこと
その朝も私はしゃがんでいた。通りかかった若い方が、遠慮がちに足を止めた。
手には、出しそびれたらしい袋を提げていた。
「あの、いつも片付けてくださっているんですか」
咎める気はなかった。私は拾ったものを隅に寄せながら答えた。
「このあたりは収集の朝に出す決まりなんですよ。前の晩に置くと、朝までに荒らされてしまうんです」
相手は息をのんだ。
「…そうだったんですね。前の晩に出しておくものだと思っていました」
張り紙には気づいていたけれど、ずいぶん前のお知らせだと思っていたのだという。
決まりを教える相手がいなければ、そんなものかもしれない。私自身、越してきた頃は誰かに教わったはずだった。
「明日から朝に出します。本当にすみません」
次の朝、袋は日が昇ってから並んでいた。破れた袋も、散らかった道もない。箒を持たずに前を通り過ぎながら、30年見てきた景色が静かに返ってきたのを感じた。話してみるものだと、しみじみ思った。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














