「洗剤の匂いが、部屋にこもって消えない」隣の家から流れてきた強い匂い。伝え方に悩んだ私の葛藤
部屋から出ていかない匂い
梅雨の夜は、日が落ちると気温が下がる。
冷房を入れるほどでもなく、私は窓を細く開けたまま眠るのが好きだった。湿った風が入ってくるだけで、寝つきがまるで違う。
その習慣が少し苦しくなったのは、この一、二か月のことだ。
朝6時ごろ、隣の家から洗濯の匂いが流れてくるようになった。
「洗剤の匂いが、部屋にこもって消えない」
甘い、作りものの花のような香り。開けた窓から静かに入ってきて、いったん部屋に落ち着いてしまうと、なかなか出ていかない。
窓を閉めても、昼を過ぎても、壁のあたりに薄く残っている。
洗濯物を部屋干ししていると、自分の服にまで同じ香りが移った気がして、何度も襟元をたしかめてしまう。
気のせいだと思いたいのに、確かめずにいられない。
私はもともと匂いに敏感な体質で、人工的な香りが長く続くと頭が重くなる。朝食のあいだもずっと匂っているので、味がよく分からない日もある。
「今日は少し軽いかもしれない」
そんなふうに、風向きに一喜一憂している自分がおかしくなる。相手の家の洗濯物ひとつで、朝の機嫌が決まってしまうなんて。
穏やかな言い方を、まだ見つけられない
困っているのに、自分にできることがほとんどない。
それがいちばんもどかしかった。窓を閉めるか、開けるか。私の側の選択肢はそれだけで、あとはすべて相手次第になってしまう。
「洗剤の匂いが少し強くて、と伝えたら失礼だろうか」
何度も文章を考えた。言葉を選び直すたびに、どこかに棘が残る。柔らかく言おうとすればするほど、遠回しで嫌味っぽくなる。
はっきり言えば、暮らし方を否定することになる。
「気にしすぎなのかもしれない」
そう思って何日かやり過ごしてみたけれど、体のほうは正直で、匂いの強い朝は昼まで頭が重い。我慢で片づく話ではなかった。
「そもそも、悪いのは向こうじゃない」
隣の家は、朝早く起きて洗濯機を回しているだけだ。
誰にも迷惑をかけているつもりはないだろうし、実際、迷惑だと感じているのは私ひとりかもしれない。
責める理由がどこにもない相手に、どう切り出せばいいのか分からなかった。
「おはようございます。あの、少しだけ」
顔を合わせたときのために用意した出だしは、まだ一度も使えていない。
あいさつのあとに続く言葉が、どうしても出てこない。
口の中で何度か転がして、そのまま飲み込んでしまう。
今朝も6時前に目が覚めて、窓を閉めた。そのあと風が涼しくなっても、もう一度開ける気にはなれなかった。
誰も悪くない話は、たぶんいちばん、終わらせ方が難しい。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














