「香典じゃなくて、借用書だった」義母の葬儀後に訪ねてきた一人の男性。封筒の中に入っていた書類に絶句
結婚目前に出された喪服
婚約者の母、つまり義母となる予定の人が、結婚式の直前に急逝した。
式場の打ち合わせに使っていた手帳をいったん閉じ、私は慌てて黒のワンピースを取り出した。試着の段階だったウェディングドレスのことを、頭の片隅に押しやるしかなかった。
夫は気丈に喪主の補佐をこなしていたが、家に帰ると無口になり、タンスの前で立ち尽くしている時間が長くなった。
私はまだ嫁としての立場も決まりきらず、義実家でただ動き続けることしかできなかった。
弔問客のはずだった男性
葬儀から数週間後の夕方、初めて見る男性が私たちのアパートを訪ねてきた。
スーツ姿で、手元には白い封筒。「お線香だけでも」と思って通したリビングで、男性は深く頭を下げ、慎重に切り出した。
親戚なのか友人なのか、最初は聞き取れなかった。けれど、こう続いた瞬間、空気の質が変わった。
「香典じゃなくて、借用書だった」
夫が背筋を伸ばすのが分かった。男性が差し出した書面には、義母の筆跡で借入の額と日付が書かれていた。
私は息を吸い込んだまま、しばらく吐き出せなかった。
新婚の食卓で続く返済
男性が帰ったあと、夫はしばらく言葉を失っていた。
「母さん、何も言ってなかった」
呟きの底にあったのは、怒りでも悲しみでもなく、ただ困惑だった。
義母の生前、夫もそうした金銭の話を聞いたことは一度もなかったという。借入の理由を確かめる相手は、もうこの世にはいない。
夫婦で話し合い、長男として、嫁として、二人で月々分割して返済していくことにした。
結婚式の費用を切り詰めながら、見ず知らずの相手への振込みが新婚の家計に組み込まれていった。新居の家具も、ハネムーンの行き先も、当初の予定からひと回り控えめなものに置き換わっていった。
新居の食卓で振込明細を眺めるたび、嫁いだ自分の手で支えるのは夫の人生のはずだったのに、と小さく思ってしまう瞬間があった。
義母を責めるつもりはない。事情があった人を、亡くなったあとに責めても何も戻ってこない。それでも、結婚直後から始まった肩代わりの数字は、新生活の高揚をどこか冷ましたまま、しばらく胸の奥で揺らぎ続けることになった。
月々の返済額を決めた夜、夫が静かに「ごめんな」と言った声を、私は今もうまく忘れられないでいる。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














