「そんなに熱くないだろ!」シチューを食べない娘にキレた夫。だが、妻がシチューに仕掛けた罠に絶句
急に変わった顔
夕方のキッチンに、めずらしく夫が立っていた。普段は料理などしない人が、その日はやけに上機嫌でシチューを煮込んでいる。
出来上がると、小4の長女と私を呼んで味見をせがんできた。
湯気がもうもうと立つスプーンを向けられ、私はやんわり断った。
「熱々だから今はいいよ〜」
続いて口をつけた長女が、舌を出して笑う。
「あっついよ〜。口の中ヤケドするって〜」
湯気が立つほど熱かったのだから、当たり前の感想だ。私もつい笑ってしまった。なのに次の瞬間、夫が娘に向かって声を荒げた。
「そんなに熱くないだろ!」
「俺がせっかく作ったんだよ!」
びくっと身をすくめた娘を、私は慌てて抱きしめた。
「びっくりしたね。大丈夫だよ」
誰も手をつけない鍋
娘の頭をなでながら、私は静かに腹を決めていた。
あんなに小さな子を、たった「熱い」のひと言で怒鳴りつけるなんて。隣で見ていた次女も、すっかり黙り込んでいる。
あれだけ怒鳴られたシチューを、わざわざ食べたい者などいなかった。
「私たちはいい。お父さんが食べて」
「あっそ」
胸を張る夫に、私はうなずいた。
それなら遠慮なく、本人の言う通りシチューを出してあげよう。
私はもう一度、コンロに火を入れた。
鍋の中が、ぼこぼこと音を立てるまで煮込んでいく。
湯気が天井へ立ちのぼり、皿に移してもなお、表面はまだ小さく泡立っていた。
ひと口で凍った夫
娘たちを寝かしつけたあと、食卓に戻った夫は、何も知らずにスプーンを口へ運んだ。
次の瞬間、その動きがぴたりと止まる。
「うっ……」
喉を通る熱さに、夫の顔がぐっと強張った。
目を白黒させ、思わず水のコップへ手が伸びかける。だが、ついさっき「熱くない」と怒鳴ったばかりだ。
今さら熱いとは言えない。手はコップの手前で宙に浮き、結局そのまま、夫は無言で食べ続けた。
「どう、おいしい?」
「……うまいよ」
額に汗をにじませ、声を震わせながら、それでも平気な顔を装う。
その必死さが、私にはどうにも滑稽に映った。あれほどの剣幕で娘を怒鳴った人が、今は熱さひとつ口に出せずにいる。立場は、ものの数十分で入れ替わっていた。
「ごちそうさま、なら片付けるね」
夫はうつむいたまま、何も言い返さなかった。あの怒声が嘘のように、台所には静けさだけが戻っていた。
翌朝、その顛末を知らなかった長女にそっと耳打ちすると、娘はぱっと顔を輝かせ、小さな拳を突き上げてみせた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














