「母さん、ちょっといいか」祖父を看取った直後の祖母。だが、父の思わぬお願いに絶句
祖父を見送った深夜の病院で
祖父が亡くなったのは、日付が変わる少し前でした。
看護師さんが祖父の身支度を整えてくれている間、私たち家族は病院の待合スペースで待つことになりました。
祖母は長椅子に座り、膝の上でハンカチを握っていました。
祖父とは何十年も連れ添ってきた夫婦です。最後まで祖父の手を握っていた祖母は、力が抜けたように背中を丸めていました。
「本当に、行っちゃったんだねぇ」
祖母がぽつりと言うと、隣に座っていた伯母が黙って肩をさすりました。
私も何か声をかけたかったのですが、うまく言葉が出てきませんでした。
そんななか、父だけは何度も席を立っていました。
親戚への連絡や翌日のことが気になっているのだろうと、そのときの私は思っていました。
しばらくすると、父が祖母の前に立ちました。
「母さん、ちょっといいか」
祖母がゆっくり顔を上げます。
父は少し言いにくそうにしたあと、こう続けました。
「悪いんだけど、3万円だけ貸してくれないか」
今、言うことなの?
一瞬、何を言っているのか分かりませんでした。
実は父は以前にも、給料日前になると祖母に数万円を借りることがありました。
そのたびに祖母は、「返してくれるならいいよ」と渡していたそうです。
けれど、その日は祖父を亡くしたばかりでした。
祖母は目を丸くしたまま、何も答えません。
父は気まずそうに続けました。
「今月ちょっと出費が重なっててさ。すぐ返すから」
その言葉を聞いた瞬間、私は我慢できなくなりました。
「お父さん、それ今言うこと?」
思っていたより大きな声が出ました。
父がこちらを振り返ります。
「いや、別に今じゃなくてもいいけど…」
「じゃあ今言わないでよ。おばあちゃん、おじいちゃんを亡くしたばかりなんだよ」
父は口を閉じました。
責め立てるつもりはありませんでした。ただ、祖母が悲しむ時間くらい、静かにしてほしかったのです。
伯母も父に向かって静かに言いました。
「お金の話なら、せめて落ち着いてからにしようよ」
父はしばらく黙っていましたが、やがて小さくうなずきました。
「……そうだな。悪かった」
そして祖母にも、「今のは忘れてくれ」と頭を下げました。
祖母は何も責めず、ただ「今日はもういいよ」とだけ答えました。
その言葉が、かえって胸に残りました。
私は祖母の隣に座り、そっと手を握りました。
しばらくして祖母が、小さな声で言いました。
「言ってくれてありがとうね」
父もその後はお金の話をせず、親戚への連絡や荷物の整理を黙って手伝っていました。
家族だからこそ、頼みやすいこともあるのだと思います。
けれど、相手がどんな気持ちでいるのかを考えることまで忘れてはいけない。
祖父を見送ったあの夜のことを思い出すたび、私はそう感じます。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














