「ちょっと詰めますね」混雑した電車にベビーカーの親子が乗ってきた。だが、1人の学生の気遣いで状況が一変
乗るか迷っていた親子
朝の通勤電車は、駅に着くたびに人が増えていました。私はドアの近くに立ち、鞄を胸の前に抱えながら、降りる駅までじっと揺られていました。
ある駅でドアが開くと、ホームにベビーカーを押した親子が立っていました。
車内はすでに混んでいて、親御さんは中を見ながら、乗れるかどうか迷っているようでした。
ドアの近くにいる人たちもその様子には気づいていましたが、すぐには動けません。
そのとき、すぐそばにいた学生がリュックを前に抱え直しました。
「ちょっと詰めますね」
そう言って一歩奥へ入ると、隣に立っていた人も少し横へずれました。
一人が動いたことで、周囲にも意図が伝わったのでしょう。
大きく場所が空いたわけではありませんが、人が少しずつ位置を変え、ベビーカーが入れるだけのスペースができました。
「すみません、ありがとうございます」
親御さんはそう言いながら、ベビーカーをゆっくり車内へ入れました。
誰かが声を出すと、動きやすくなる
電車が走り出すと、車内はまたいつもの静けさに戻りました。
途中で少し大きく揺れたとき、親御さんが手すりを探すように周囲を見ました。すると近くにいた会社員が、自分の体を少しずらしながら声をかけました。
「ここ、つかまれますよ」
親御さんは「ありがとうございます」と答え、片手で手すりを握りました。
それ以上、特別なやり取りがあったわけではありません。周囲の人も、ベビーカーにぶつからないよう少し体の向きを変えながら、それぞれスマートフォンを見たり、窓の外を眺めたりしていました。
しばらくして親子が降りる駅に着きました。
ドアが開くと、近くにいた人たちが自然に左右へよけます。親御さんはもう一度「ありがとうございました」と頭を下げ、ベビーカーを押してホームへ降りていきました。
ドアが閉まれば、空いた場所にはすぐ別の人が立ち、車内は元通りになりました。
けれど私は、一番最初に聞こえた「ちょっと詰めますね」という短い言葉を覚えていました。
混雑した場所では、周りも助けたいと思っていても、どう動けばいいのか分からないことがあります。あの朝は、一人が声に出したことで、ほかの人も自然に動きやすくなったように見えました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














