「子どもが優先席に座ってるのか」子供の近くでつぶやいた男性。だが、隣の女性がかけた一言とは
優先席の男の子に聞こえた、小さな一言
平日の夕方、仕事帰りに乗った路線バスは混み合っていました。私は優先席のすぐ横に立ち、手すりにつかまっていました。
優先席には、小学生くらいの男の子が一人で座っています。かばんを膝に抱え、窓の外を眺めていました。そのすぐ横には、買い物袋を提げた女性が立っていました。
次の停留所で年配の男性が乗ってきて、私の近くで手すりにつかまりました。しばらくして男性は男の子に目をやり、ぼそっとつぶやきました。
「子どもが優先席に座ってるのか……」
大声ではありません。それでも、すぐ近くにいた男の子には聞こえたようでした。
男の子はさっと下を向くと、かばんを抱え直しました。そしてバスがまだ走っているのに、慌てたように腰を浮かせたのです。
ちょうどそのとき、バスがカーブに入りました。男の子の体がふらつき、私は思わず手を伸ばしかけました。
女性が止めたのは、席を譲ることではなかった
先に声をかけたのは、隣に立っていた女性でした。
「今は立たなくて大丈夫だよ。危ないから、次に停まってからでいいよ」
男の子は女性を見上げ、少し戸惑った顔をしました。
「でも…」
「大丈夫。急がなくていいから」
女性は男性をにらむでもなく、責めるでもありません。ただ、走行中に立とうとした男の子へ穏やかに声をかけただけでした。
男の子は小さくうなずき、もう一度座席に腰を下ろしました。男性もそれ以上は何も言わず、前を向いていました。
やがて次の停留所に着き、バスが完全に止まると、男の子は席を立ちました。
「あの、どうぞ」
男性は少し驚いたようでしたが、「ありがとう」と短く答えて席に座りました。
男の子はそのまま私たちの近くで手すりにつかまりました。女性が「気をつけてね」と声をかけると、男の子は少し照れたように「はい」と答えました。
席を譲るかどうかではなく、慌てて危ないことをしなくていい。女性が伝えたかったのは、きっとそれだけだったのだと思います。
誰かの言葉に焦ってしまった私は、走っているバスの中で立ち上がる危なさにすぐ気づけませんでした。強く言い返さなくても、目の前で困っている人に必要な一言をかけることはできる。そんなことを教えられた出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














