「なんでこんな若い女が、優先席に座ってるんだ」優先席の女性を責めた男性。だが、年配女性が伝えた一言で空気が一変
優先席の前で、大きな声がした
帰宅時間のバスは混んでいて、通路にも何人か立っていました。
私は後ろ寄りの席に座り、前方の優先席が見える位置にいました。
そこには、若い女性が一人で座っていました。お腹はかなり大きく、かばんにはマタニティマークが下がっています。
バスが揺れるたび、女性は片手でお腹を支えるようにしていました。
途中の停留所から男性が乗ってきました。
空席を探すように車内を見回したあと、優先席の女性の前で足を止めます。
「なんでこんな若い女が、優先席に座ってるんだ」
車内に聞こえるほどの声でした。
女性は一瞬顔を上げましたが、すぐに視線を落としました。男性の目にもマタニティマークは入っているように見えましたが、その場を離れません。
「少しくらい立てるだろう」
「…すみません」
責められるようなことをしているわけではないのに、女性は小さな声で謝りました。私は二つほど後ろの席から見ていましたが、突然のことで声をかけることができませんでした。
先に席を譲ったのは、私の隣の男性だった
すると、私の隣に座っていた男性が文庫本を閉じて立ち上がりました。
「よかったら、ここ座ってください」
中年の男性に向けた言葉でした。
男性は少し意外そうな顔をしましたが、その席へ移りました。
これで終わるのかと思いましたが、座ったあとも優先席のほうを見ています。
「若いんだから、元気そうに見えるけどな」
その声も、周囲には十分聞こえていました。
そのとき、通路を挟んだ向かい側に座っていた年配の女性が立ち上がりました。
妊婦の女性のそばまで行くと、静かに声をかけます。
「こちらの席と替わりませんか」
妊婦の女性は戸惑いながらも立ち上がり、年配の女性が座っていた席へ移りました。中年の男性から少し離れた場所です。
年配の女性はそのまま吊り革につかまり、中年の男性のほうを見ました。
「さっきから、みんなに聞こえる声ですよ」
「…うるさいな」
男性が返したのは、それだけでした。
それ以上何かを言うことはなく、窓のほうへ顔を向けました。車内にも、また少しずついつもの静けさが戻っていきました。
次の停留所で、男性は降りていった
次の停留所でバスが止まると、中年の男性は立ち上がり、そのまま降りていきました。
年配の女性は空いた席には戻らず、吊り革につかまったままでした。
妊婦の女性が何度も頭を下げると、年配の女性は首を横に振ります。
「大丈夫ですよ。座っていてください」
それだけ言うと、また前を向きました。
大きな言葉で男性を言い負かしたわけではありません。それでも、困っている人から少し距離を取らせ、必要なことだけを伝えた姿が印象に残っています。
私はその日、何も言えずに見ていただけでした。だからこそ、静かに立ち上がった二人のことを、今でもよく覚えています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














