「抹茶色と、聞こえたんです」茶色のたぬき4匹の横に緑色を並べた私。先輩も驚いた、発表会での思わぬ人気
見本を確認せずに作った緑色のたぬき
保育園で働いていると、行事に合わせて壁に飾る制作物を作る機会がよくあります。
ある年の秋の発表会では、大きなたぬきを5匹作ることになりました。
先生たちで1匹ずつ担当することになり、私もそのうちの1匹を任されたのです。
制作のまとめ役は、40代の先輩でした。
給食の時間、子どもたちの声でにぎわう教室で、先輩が配膳の台を押しながら型紙を手渡してくれました。
「見本は職員室の棚にあるからね。色は…」
周りの声が重なったせいか、最後の言葉が私には「抹茶色」と聞こえたのです。
「えっ、抹茶色?」
聞き返そうとしたときには、先輩はもう、おかわりを呼ぶ子どものところへ行っていました。
忙しそうな先輩を何度も呼び止めるのも悪い気がして、私はそのまま作業を始めることにしました。
「抹茶色のたぬきって、珍しいな…」
少し不思議には思いましたが、行事の飾りつけに慣れている先輩のことです。
何か考えがあるのだろうと納得してしまいました。
結局、職員室の見本は確認しないまま、緑色の画用紙を使って制作を進めました。
お昼寝の時間を3日分使い、目の周りの模様や、しっぽのしま模様まで丁寧に貼り合わせました。
完成したたぬきを眺めながら、「なかなかかわいくできた!」と、ひとりで満足していたのです。
茶色の4匹と、緑色の1匹
発表会の前日の夕方、完成したたぬきを抱えて教室に向かいました。
ところが、壁を見た瞬間、私は足を止めました。
そこには先輩が貼り終えた4匹のたぬきが並んでいたのですが、どれも茶色だったのです。
「あの……できました」
恐る恐る緑色のたぬきを差し出すと、先輩はしばらく黙っていました。
そして、思わずといった様子で笑い始めたのです。
「えっ、なんで緑なの?見本は茶色1色って言ったでしょう」
「すみません……。抹茶色と、聞こえたんです」
「抹茶色!?ああ、そういうこと! 見本は見なかったの?」
「はい…」
恥ずかしくて、顔が熱くなりました。たった一度、見本を確認していれば防げた間違いです。
「今夜のうちに作り直します」
そう申し出ると、先輩は笑いを収めて言いました。
「待って。せっかく作ったんだし、貼ってみましょうよ」
そして、茶色の4匹の隣に、緑色のたぬきを貼ってくれたのです。
ちょうどそのとき、お迎えを待つ子どもたちがホールから戻ってきました。
「あっ!緑のたぬきだ!」
ひとりが声を上げると、ほかの子どもたちも次々に駆け寄ってきました。
「このこ、ぼくのたぬき!」
「わたしがさきにみつけたの!」
思いがけない大人気です。その場で名前までつき、子どもたちの注目は緑色のたぬきに集まっていました。
発表会当日には、保護者の方たちも緑色のたぬきの前で順番に写真を撮っていました。
どうしてそんなに人気なのか、年長の子に聞いてみると、あっさり答えてくれました。
「だって、1匹だけ違うから、すぐわかるもん!」
その言葉に、思わず笑ってしまいました。
発表会が終わり、飾りを片づける日。先輩が私の肩をたたきながら言いました。
「来年もあなたに1匹まかせるわ。色は、あえて言わないから」
そして翌年、私は青いたぬきを作りました。
今では毎年、園の壁に1匹だけ色の違うたぬきが並んでいます。
あの日確認しなかった見本は、今も棚に置かれたままです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














