「既製品は邪魔。机からどかして」手作りのかんざしを通販品と言い、机から外す幹事。だが、2分後に頭を下げた
開場10分前の販売の机
開場10分前、幹事は私の箱を机からどかしてと言いました
「既製品は邪魔。机からどかして。」
公民館まつりの開場まで、あと10分。
ロビーに設けられた販売用の机の前で、手芸サークルの先生、販売担当の幹事、私の3人が作品の並べ方を確認していた時です。幹事が、机のまん中に置かれた私の白い箱を指さしました。
箱の中にあるのは、私が水引で作った梅結びのかんざしです。毎年このまつりに出品しており、今年も自宅で時間をかけて仕上げた作品でした。
「全部、私が家で結んだ物です。」
幹事は、私が結ぶところを誰も見ていないと言いました
「結ぶところ、誰も見てない。」
「ここでは、一度も結んだことがない。」
幹事は先生に向き直り、『水引を10年やっている私が見れば分かります』と続けました。
去年のまつりでは、私のかんざしが昼前に売り切れた一方、幹事の水引の飾りは売れ残っていました。それ以来、幹事は私の作品に厳しい目を向けるようになっていたのです。
今年の販売準備は幹事が中心となって進めており、先生も作品の配置を任せていました。
幹事は、通販で同じかんざしを見たと先生に言いました
幹事は箱のふたを開け、白と金のかんざしを1本取り出して、先生の前にかざしました。
「通販で、同じ物を見ました。」
「輪が5つとも、ぴったり同じ。」
サークルでは普段、先生から刺しゅうを習っていますが、まつりでは各自が家で作った手芸作品も販売しています。
水引を扱うのは幹事と私だけで、私はいつも家でひとりで結んでいました。
そのため、先生に制作している姿を見せたことはありません。
先生は幹事の主張に戸惑っている様子でした。私も手作りだと説明しましたが、言葉だけでは疑いを晴らせそうにありません。
白と金の輪が、幹事の指の先で揺れていました。
まん中に置かれた幹事のかご
幹事は、机のまん中に自分の飾りのかごを置きました
幹事はかんざしを箱に戻してふたを閉め、箱を机の下へ下ろしました。
そして、空いたまん中に自分の金と紫の飾りが入ったかごを置いたのです。
「まん中には、私の飾り。」
先生も眉を寄せて、私を見ています。
手作りだという私の説明を信じてよいのか、迷っているようでした。
先生にまで疑われたまま、まつりを迎えたくありませんでした。
「先生、2分だけください。」
包装用の水引1本から、2分ほどで梅結びを結びました
家の外で、水引を結んだことは一度もありません。
人前では緊張して手が震えるのではないかと思い、これまで結んでみせる機会を避けていました。
しかし、ここで何もせずに引き下がるわけにはいきません。
机の左端には、購入された品を包むために用意された、サークルの赤い水引がありました。
『一本、お借りします』と先生に断り、そこから1本取りました。
指に掛けて輪を作り、2人の目の前で、ひと続きに結んでいきます。幸い、手は震えませんでした。
2分ほどで、赤い梅結びが私の手のひらにのりました。5つの輪は、同じ大きさにそろっています。
「1つだけなら、練習すれば結べる!」
「何本でも、同じ輪に結べます。」
私は手のひらの梅結びを先生に差し出しました。
ただ、1つ結んでみせただけでは、箱に入ったかんざしをすべて自分で作った証明にはなりません。
そこで、家で制作していた時に撮影した写真も見せることにしました。色や結び目のバランスを確認するため、制作途中の写真を何枚かスマートフォンに残していたのです。
幹事は、戻した私の箱の前で深く頭を下げました
先生は私の手のひらの梅結びに顔を寄せて見たあと、スマートフォンの写真も確認しました。
そこには、白と金の水引を結んでいる途中の様子や、かんざしの金具に取り付ける前の作品が写っています。
先生は実物と写真を見比べ、納得した様子でうなずきました。そして、まん中に置かれた幹事のかごへ目を移しました。
私が2本目の水引に手を伸ばすと、先生の視線に気づいた幹事が、『もう、いいです』と止めました。
先生から、通販で見たという商品の画像や販売先を確認されると、幹事は何も示せませんでした。
結局、通販で同じ物を見たというのは作り話だったと認めたのです。
幹事は自分のかごを脇へずらし、机の下から私の箱を取り出して、まん中へ戻しました。
「売り切れるのが、悔しかったんです。」
去年、自分の作品が売れ残ったことが気になり、私の作品を目立つ場所に置きたくなかったようです。
幹事は、戻した白い箱の前で、私に深く頭を下げました。
先生も事情を理解してくれ、私のかんざしは予定どおり販売されることになりました。
疑いを晴らせたことにほっとすると同時に、あの場で思い切って水引を結んでよかったと思いました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














