「うちが先に来たんで」運動会の観覧席を広く占領した二家族。だが、困っていた保護者を見た先生が伝えた一言
真ん中だけがにぎやかな観覧席
小学生だったころの運動会の朝のことです。
僕は父と一緒に、校庭で観覧場所を探していました。すでに多くの保護者が場所取りをしていて、なかなか空いているところが見つかりません。
そんなとき、ひときわ大きなブルーシートが目に入りました。
校庭の見やすい場所に広々と敷かれたシート。その真ん中には、仲がよさそうな二家族が集まり、楽しそうにおしゃべりをしていました。
ところが、シートの端のほうはほとんど使われていません。荷物すら置かれていないのです。
そのすぐ横では、シートを持った保護者たちが困ったように立っていました。
「あそこ、あんなに空いてるのにね」
僕が父に言うと、父もシートを見ながら答えました。
「そうだな。でも、もう場所を取ってるからなあ……」
僕たちも、どこに座ろうかと迷っていました。
すると、年配の女性を連れたお父さんが、広いシートの端に近づきました。
「すみません。少しだけ詰めてもらえませんか?」
真ん中にいた母親たちは、ちらりと顔を向けましたが、会話を続けています。
お父さんがもう一度お願いすると、父親のひとりが振り返りました。
「いや、うちが先に来たんで。もっと早く来ればよかったじゃないですか」
その言葉に、シートの上から笑い声が上がりました。
お父さんは困った表情を浮かべ、年配の女性に付き添いながら、いったんその場を離れました。
僕は広いシートを見つめながら、そんなに場所を取らなくてもいいのに、と思っていました。
先生が伝えた、たった一つのお願い
開会が近づいたころ、ジャージ姿の先生が観覧席を見回りながら歩いてきました。
先生は大きなブルーシートの前で足を止めると、二家族に声をかけました。
「すみません。こちらのシート、もう少し詰めていただけませんか?」
すると、先ほどの父親が顔を上げました。
「えっ? でも、うちは早く来て場所を取ったんですよ?」
先生は落ち着いた声で答えました。
「はい。ただ、まだ場所が取れていないご家族がいます」
そう言って、シートを持って立っている保護者たちのほうに目を向けました。
「使っていないところだけでも、空けていただけると助かります」
その言葉を聞いて、周囲の保護者たちもブルーシートに目を向けました。
先ほどまで笑っていた二家族は、互いに顔を見合わせています。
父親のひとりは何か言いかけましたが、結局、何も言いませんでした。
やがて二家族は黙って立ち上がり、広げていたブルーシートを半分に折りたたみました。
それでも、二家族が座るには十分な広さがありました。
空いた場所には、先ほどの年配の女性を連れたお父さんが戻ってきて、シートを広げました。
僕の父も、その隣に僕たちのシートを敷きました。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
お父さんがお礼を言うと、先生は軽く会釈して、次の場所へ歩いていきました。
開会のあいさつが始まるころには、二家族も折りたたんだシートの上で静かに座っていました。
誰かを怒鳴るでもなく、ただ困っている人がいることを伝えた先生。
大人になった今でも、あのときの先生の落ち着いた声をよく覚えています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














