「これ、よかったら」と3度も果物をくれた隣人。だが、ほかの住人に聞いてから、ドアを開けられなくなった
同じ朝に繰り返し鳴った呼び鈴
40代になって間もないころ、私は集合住宅で家族と暮らしていました。隣には2年ほど前から中年の男性が一人で住んでいましたが、普段は顔を合わせても会釈をする程度でした。
最初に訪ねてきたのは、雨上がりの朝です。呼び鈴が2度鳴り、ドアを開けると、男性が紙袋を提げて立っていました。
「あの、これ…よかったら」
「えっ、私にですか?」
中には大ぶりの梨が入っていました。
「親戚から送られてきたんですけど、多くて」
「そうなんですね。でも、本当にいただいていいんですか?」
男性は小さくうなずきました。
「はい。食べきれなくて」
「じゃあ、ありがとうございます。家族でいただきますね」
男性は「どうも」とだけ言い、隣の部屋へ戻っていきました。
その後も、同じ曜日の朝に男性が訪ねてきました。梨の次は柿、その次はぶどう。三度とも最後に「食べきれなくて」と言うだけで、長話をすることもありません。
三度目の果物を食べながら、私は家族に話しました。
「今日も隣の人が持ってきてくれた。これで3回目」
「また?そんなにたくさん届くんだね」
「うん。でも、毎回うちに持ってきてくれるのがちょっと不思議で」
「今度、何かお返ししたほうがいいかもね」
「そうだね。もらってばかりも悪いし」
ありがたい気持ちはありました。ただ、「どうして毎回うちなんだろう」という小さな疑問も残りました。
近所の人に聞いて気になり始めたこと
数日後、回覧板を届けたついでに、同じ階の年配の女性へ何気なく尋ねました。
「隣の方から最近よく果物をいただくんです。そちらにも来ています?」
女性は少し驚いた顔をしました。
「え?うちには一度も来たことないわよ」
「そうなんですか。てっきり近所に配ってるのかと思ってました」
「私は挨拶くらいしかしたことないわね」
後日、たまたま顔を合わせた下の階の住人にも聞いてみましたが、「うちは何ももらってないですよ」と言われました。
もちろん、ほかのすべての家を確認したわけではありません。それでも、少なくとも私が聞いた人たちには渡していないと知り、少し気になるようになりました。
次の週の朝、また呼び鈴が鳴りました。
私は玄関まで行きましたが、なぜかその日はドアを開ける気になれませんでした。
のぞき穴の向こうには、紙袋を提げた男性が立っています。
少しして、もう一度呼び鈴が鳴りました。それでも出ずにいると、男性は帰る前に、しばらくこちらのドアを見ていました。
翌朝、新聞を取ろうとドアを開けると、ドアノブに紙袋がかかっていました。
中に入っていたのは、梨が一つだけ。
袋の口は、それまで受け取ったものと同じように、きちんと二つに折られていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














