「見えなくなっちゃった」動物園で子どもの視界をふさいだ女性。係員に注意されたあと、ライオンの赤ちゃんが歩いていった先
かがんで見守る列の先頭に、伸びてきたタブレット
生まれたばかりのライオンの赤ちゃんを見たくて、私は動物園へ足を運びました。
昼の展示場には、大勢の見学客が集まっていました。
赤ちゃんは柵からずいぶん離れた場所にいて、見える角度も限られています。
それでも前の人たちは少しかがんだり、見終わると横へずれたりして、後ろの人にも順番を回していました。
ところが、その流れが突然止まりました。
後ろからやってきた女性が、かがんでいる人たちの間に割り込み、最前列に立ったのです。
「失礼、前に行かせて」
女性は大きなタブレットを両手で掲げ、柵の内側へ腕を伸ばしました。
ちょうど赤ちゃんがいる方向に画面が重なり、後ろからはほとんど見えなくなってしまいました。
「見えなくなっちゃった」
どこからか、子どもの残念そうな声が聞こえます。
女性の隣にいた人が、遠慮がちに声をかけました。
「あの、うしろの方も見えないので」
「すぐ済むわよ、撮ったらどくから」
女性は画面から目を離さず、何度もシャッターを切っています。
写真を撮るのに夢中な様子で、周りの人たちが困っていることには気づいていないようでした。
私も女性の後ろから何とか赤ちゃんを見ようとしましたが、タブレットが邪魔で、なかなか姿を確認できませんでした。
係員の言葉のあと、赤ちゃんが歩いていった先
そこへ、制服姿の男性係員がやってきました。
係員は女性の横に立つと、落ち着いた声で注意しました。
「端末は柵の外でお願いします」
女性は一瞬だけ係員を見ましたが、すぐに画面へ視線を戻します。
「今ちょうどこっちを向いてるのよ」
「柵の内側に手を伸ばすのは危ないので、ご遠慮ください。皆さま、順番にご覧いただいております」
後ろで待っていた人たちも、その言葉に小さくうなずいていました。
女性は何か言いかけましたが、結局何も言わず、掲げていたタブレットをゆっくり下ろし始めました。
すると、ちょうどそのときです。
離れた場所にいたライオンの赤ちゃんが、とことこと展示場の反対側の端へ歩いていったのです。
そこは、後ろで待っていた人たちからよく見える位置でした。
「わあ、見えた!」
後ろの列から、小さな歓声が上がりました。
女性も慌ててタブレットをそちらへ向けました。しかし、見る角度が限られているため、最前列の女性が立つ場所からは、赤ちゃんの姿が見えなくなったようでした。
先ほどまで後ろの人たちの視界をふさいでいた女性が、今度は自分の立つ位置から赤ちゃんを見られなくなってしまったのです。
女性はしばらく画面をのぞき込んでいましたが、やがて黙ってタブレットを下ろしました。
そして誰とも目を合わせず、その場を離れていきました。
私もようやく、展示場の端でよちよち歩く赤ちゃんを見ることができました。
「ちゃんと見えたね」
近くにいた子どものうれしそうな声に、周りからもやわらかな笑い声が広がりました。
自分だけがよく見える場所を確保するより、少しずつ譲り合ったほうが、みんなで楽しめるのかもしれません。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














