「最近、火事が多いらしいわよ」ごみ出し中に近所の奥さんと火の用心の話。だが、帰宅した私が青ざめた理由
火の用心の話に夢中になって
ある朝、家族を送り出した私は、夕飯の煮物を作っておこうと台所に立っていました。
鍋をコンロにかけ、だしがふつふつと煮立ちはじめたころ、窓の外を、ごみ袋を持った人が通り過ぎていきました。
「あっ、ごみ出すの忘れてた!」
玄関には、まだごみ袋が置いたままです。
集積所は角を曲がってすぐの場所。
ごみを置いて帰ってくるだけなら、たいした時間はかからないと思いました。
火を止めてまた温め直すのも面倒で、私はコンロを弱火にしたまま、ごみ袋を持って外へ出たのです。
集積所に着くと、近所の奥さんがカラスよけのネットを直していました。私の母に近い年ごろで、町内のことにも詳しい人です。
「あら、おはよう」
「おはようございます」
私がごみ袋を置くと、奥さんが話しかけてきました。
「そういえば、最近、火事が多いらしいわよ」
「えっ、そうなんですか。この辺で?」
「そこまでは分からないけど、この前の夜も消防車が通ったでしょう?」
そういえば、夜中にサイレンを聞いた気がします。
「怖いですね。気をつけないと」
「本当よね。ちょっとした不注意が怖いから」
そこから話は、ストーブの消し忘れや天ぷら油の扱いなど、火の用心に関する話題へと広がっていきました。
私も「そうですよね」「気をつけないといけませんね」と相づちを打ちながら、すっかり話し込んでしまいました。
ごみを出したらすぐに帰るつもりだったのに、いつの間にか時間が過ぎていたのです。
奥さんの一言で思い出したこと
「出かけるときは、必ずコンロを見てからにしなきゃね」
奥さんがそう言った瞬間、私はハッとしました。
コンロ。弱火。煮物の鍋。
「あっ…!」
家を出る前の光景が頭に浮かび、血の気が引きました。
「すみません、ちょっと失礼します!」
慌てて奥さんに頭を下げ、家へ駆け戻りました。
玄関を開けた途端、焦げくさいにおいが鼻をつきました。
台所には煙がこもり、鍋のふたの隙間からも煙が出ています。
「うわっ、どうしよう!」
急いでコンロの火を止め、窓を開けました。
鍋の中を確認すると、煮物は真っ黒に焦げ、底にこびりついていました。
幸い火事にはなりませんでしたが、鍋はもう使えない状態です。
換気をしながらコンロや周囲の壁を拭き、後片づけをしているうちに、お昼近くになっていました。
夜、帰宅した夫が玄関で不思議そうな顔をしました。
「あれ、なんか焦げくさくない?」
「……そうかな」
私は思わず目をそらしてしまいました。
翌朝、届いた回覧板
翌朝、チャイムが鳴ったので玄関に出ると、昨日の奥さんが回覧板を持って立っていました。
「おはよう。回覧板、お願いね」
「おはようございます。ありがとうございます」
受け取った回覧板の表紙には、大きな文字で「火の用心」と書かれています。
「ほら、昨日も話したけど、やっぱり気をつけないとね」
「……本当ですね」
私は引きつった笑顔で答えるのが精いっぱいでした。
奥さんは「じゃあ、よろしくね」と言って、次の家へ向かっていきました。
昨日あれほど火の用心について話していたのに、まさか自分がコンロの火をつけっぱなしにしていたなんて。
焦げた鍋のことを奥さんに言えるはずもなく、私は赤くなった顔を隠すように、そっと玄関のドアを閉めました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














