「順番抜かしてますよ!」レジで堂々と先に並んだ客。だが、店員の一言で状況が一変
次は私の番だったのに
夕方のスーパー、レジ待ちの列に並んでいたときの話だ。
前の客の会計が終わり、あと少しで自分の番というところだった。
少し疲れた足でカゴを持ち、やっとここまで来たと思った矢先のことだった。
斜め前から中年の女性がするりと入り込み、当たり前のようにカゴをレジ台へ置いた。
列の空気がぴりっとした。後ろの人が小さく声をもらしたのが聞こえたが、誰も正面からは何も言えなかった。
私もそうだった。
(どうしよう、このまま黙っているしかないのか)
割り込んだ女性はこちらを一切見ない。前を向いたまま、財布を取り出している。
あの堂々とした立ち振る舞いに、私は何も言えないまま立ち尽くしていた。列はじりじりと止まったままで、時間だけが止まったようだった。
後ろの人の息づかいが聞こえる。誰もが同じ気持ちのはずなのに、言葉を持て余している。場が固まったまま数秒が過ぎた。
どこかのタイミングで言えるだろうか、とも考えた。でも実際に口を開こうとすると、声が出てこなかった。言ったあとのことを想像するだけで足がすくむ感覚があった。
穏やかに、でもはっきりと
そのとき、近くで棚の整理をしていたエプロン姿の店員が歩み寄ってきた。
「順番抜かしてますよ!」
割り込んだ女性の表情が一瞬固まった。店員は列の後方を静かに示し、女性はカゴを持ち直してそちらへ移動した。
抵抗も言い訳もなかった。
店員はすぐに棚の作業へ戻り、列は静かに前へ動き出した。後ろの人たちの肩からも力が抜けるのが分かった。さっきまでの空気が嘘のように、レジの列が普通の列に戻っていった。
声を荒げることも、周りを巻き込むこともなかった。一言で場が収まった。プロの仕事だと思った。
自分で動けなかった場面で、誰かが静かに動いてくれた。ただそれだけのことで、帰り道の空気がやわらかくなった。こういう人がいる職場は、何かが違うのだと感じながら店を出た。
誰かが理不尽な目に遭っているとき、大声で割り込まなくても、静かな一言で場を変えられる。あの店員の動き方を、しばらく頭のなかで繰り返していた。
普段の買い物で、あの場面を思い出すことがある。見ていてくれる人は、どこかにいる。その事実が、今でも少し心を軽くしてくれる。誰かの静かな勇気に、ひっそり支えられた夕方だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














