「無理しないでね」ドアの前に手作りのお粥を置いた隣人。だが、優しさが恐怖に変わったワケ
手作りのお粥が置かれていた朝
有休明けの朝、いつも通り玄関のドアを開けた瞬間に足が止まった。
三和土に、ラップをかけられた湯気の立つ容器がぽつんと置かれている。横には小さな付箋。手書きの丸い文字が、朝の薄明かりに浮かんでいた。
「無理しないでね」
同じ階の奥さんの字だった。
中身は手作りのお粥で、湯気と一緒にしょうがの匂いがふんわりと立ちのぼる。
優しさのつもりかもしれない。だが、私は誰にも体調不良など伝えていない。咳をした覚えもないし、宅配便すら呼んでいない。
なぜ彼女が私に粥を作る必要があったのか、すぐには結びつかなかった。
遡って気づいた違和感の連鎖
容器を手に部屋へ戻り、お茶を入れながら考えた。
前日、私は急な有休で一日中家にいた。インターホン越しに彼女が言った言葉が蘇る。
「今日はお休みなんですねー。朝からずっとお部屋にいるから」
その瞬間に背筋がぞくっとしたのを忘れていない。あの時点で、彼女は私の在宅を確信していた。さらに遡れば、洗濯物を干せば窓が開き、ゴミを出せば必ずエレベーター前に立っている。
仕事帰りの時間まで把握されているように感じた夜もあった。引っ越して3年、ただの挨拶仲間だと思っていた相手だ。それなのに、私のスケジュールを把握しているのは家族でも友人でもなく、隣の住人だった。
監視されていたという確信
50代の私が一人暮らしを始めて2年、隣人と深く関わったことはない。
それでもこちらの動きは、すべて筒抜けだった。お粥のメモを見つめながら、ふと壁の向こうを意識した。
仕切り壁の薄さ、玄関ドアの位置関係、ベランダの距離。彼女からすれば、私の生活音はすべて聞こえていたのかもしれない。蛇口をひねる音も、テレビを消す瞬間も、靴を脱ぐ音も。
容器のラップに指を近づけてやめた。中身を口にする気にはなれなかった。善意の形をした粥が、なぜか得体の知れない圧力に変わって見えた。少し冷めても触ろうとは思えず、結局そのまま生ゴミとして処分することにした。
翌週、思い切ってマンションの管理会社に相談した。
担当者は「他にも同じ階の住民から相談を受けていまして」と声を落とした。同じ階の他の住人も、私と同じように行動を読まれていたのだ。私は容器を持ったまま、しばらく言葉が出てこなかった。挨拶を交わすだけの相手が、いつのまにかこちらの一挙手一投足を見張っていた。それを知った瞬間、ベランダに出るのも怖くなった夜が始まった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














