「頑張っても給料は変わんないよ」短期バイト先で同僚が告げた一言。だが、現場担当者の一言で状況が一変
全力で打ったら浮いた
短期でデータ入力のバイトに入ったとき、最初から飛ばしすぎた。
キーボードには昔から慣れていて、集中すれば一時間でかなりの量をこなせる。効率よく進めようと、開始早々から本気のペースで打ち続けた。順調に積んでいた枚数が着実に減り、このペースなら早めに終わりそうだとひそかに思っていた。
しばらくして周囲を見渡すと、皆がゆっくり一枚一枚を処理している。
焦りも気負いも感じさせない、落ち着いた手つきだった。テーブルの上の残量も、自分のものとはかなり差があった。自分だけが浮いている気がして、居心地の悪さを覚えた。
隣の席の年配の男性が、独り言のような声で教えてくれた。
「頑張っても給料は変わんないよ」
なるほどそういう現場か、と納得した。それ以来、周囲のリズムに合わせて手の動きを抑えた。
キーを叩くテンポを落とすだけで、不思議と場に馴染む感覚があった。周りの全員が同じように調整しているのだと気づいたのは、その少し後のことだった。
号令一つで場の空気が変わった
そうして一時間ほど意識してペースを落としていたところ、担当の男性が巡回に来た。
テーブルを一つひとつ確認しながら歩き、最後に全員へ向けて言った。
「皆さん、もう少しピッチを上げてみましょうか」
その一声で、場の空気ががらりと変わった。遠慮する必要はなくなった。周囲の人たちも同じように感じたのだろう、一呼吸おいてから指の動きが一斉に速くなった。
自分も遠慮なく本来の速度に切り替えた。キーを叩く音がフロア中に広がり、積み上げられていた入力用紙がみるみる消えていく。こういうことだったのかと、妙に腑に落ちた。
担当の男性が再びテーブルの前に立ち、残り枚数を見て少し目を見開いた。口から出たのはたった一言だった。
「みんな、やればできるじゃん」
苦笑い交じりの声だったが、悪い気はしなかった。
ずっと抑えていた分が一気に解放されたような、気持ちのいい終わり方だった。
合わせることも、本気を出すことも、どちらも場の流れを読んだ結果だ。短期バイトとはいえ、それなりに充実した一日だった。日当は皆と同じでも、この爽快感は自分だけのものだと思った。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、50代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














