「私の部屋はノックして」→「水くさいな」部屋に入ってくる義祖父。だが、私が示した3つの約束とは
境目のない義祖父
同居して三年、私はずっと同じことに悩んでいた。
義祖父が、私の部屋にまるで自分の部屋のように入ってくるのだ。
ノックはない。
日中、私が仕事で留守にしているあいだも、部屋に入って本棚を眺めたり、机の上を片付けたりしていたらしい。
帰宅すると、置いた覚えのない場所に物が移っていた。
夫に打ち明けても、腰が引けたままだった。
「昔の人だから、部屋を分けるって感覚がないんだよ」
そう言って、義祖父には何も言ってくれない。
私はとうとう、自分で伝えることにした。
夕食のあと、義祖父の前に座り、まっすぐ切り出した。
「私の部屋はノックして」
義祖父は湯呑みを置いて、けげんそうな顔をした。
「水くさいな」
家族なんだから、そんな他人行儀な、という顔だった。夫は隣で、目を伏せて黙っている。
「じいちゃんも悪気はないんだしさ」
夫は小さくそう言うだけで、助け舟にはならない。ここで折れたら、また同じことの繰り返しになる。私は膝の上で、手を握り直した。
三つの約束で変わった距離
ここで引いたら、また元通りになる。
私は指を三本立てて、ゆっくり伝えた。
「三つだけ、約束させてください」
義祖父の眉が動いた。
「一つ、入る前にノックすること。二つ、留守のあいだは入らないこと。三つ、私の物を勝手に動かさないこと」
穏やかに、けれど一つずつはっきりと区切った。
「家族が嫌いなわけじゃないんです。だからこそ、気持ちよく一緒に暮らしたくて」
義祖父はしばらく腕を組んで考えていた。それから、ふっと表情をゆるめた。
「…なるほどな。孫の嫁に気をつかわせてたか」
怒るでも、すねるでもなかった。むしろ、これまで気づかなかった自分を恥じるような顔だった。
「昔はな、家中どこも開けっ放しが当たり前だった。誰の部屋も、なかったようなもんだ」
義祖父はそう言って、ゆっくりうなずいた。
「けど、それはわしの時代の話か。悪かったな、気づかんで」
隣で夫が、決まり悪そうに私と義祖父を見比べている。ずっと言い出せなかったことを、私はやっと口にできたのだ。
「わかった。約束する」
その一言で、三年ぶんの気詰まりが、ようやく肩から下りた。次の日から、私の部屋の前では必ずノックの音がした。留守中に物が動くこともなくなった。
「入っていいか」と廊下から聞こえるたび、私は「どうぞ」と笑って返せるようになった。線を引くことは、突き放すことじゃない。きちんと伝えたその日から、義祖父との距離は、かえって近くなった気がしている。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














