「時間も守れないんですか!?」ゴミ捨て場で見張る若い住人。だが、退去者が続出し、大家が一喝した結果
目の前の収集スペース
初めての一人暮らしで選んだのは、玄関のすぐ前がゴミ収集スペースのマンションだった。
引っ越して間もないある朝、ゴミ袋を置きに出ると、収集スペースの前に女性が一人立っていた。
私と同じ二十代くらいに見える。こちらが袋を置いて戻っても動かず、出された袋を順番に持ち上げて中をのぞき込んでいた。
(あの人、ずっと何をしてるんだろう)
戸惑っていると、通りがかった住人が小声で教えてくれた。
「あの人ね、ゴミにすごく厳しいの。気をつけてね」
「厳しい、というと」
「少し遅れて出しただけで、持って帰って次回にしてって。口論になったこともあるみたい」
居座る視線
年配の人ならともかく、自分とそう変わらない年の人が毎朝ゴミの見張りをしているとは。
けれど話は本当だった。彼女は決まった時間にあらわれ、収集スペースの前に陣取る。
気に入らない袋を見つけると、出した本人を呼び止めて詰め寄った。
仕事に向かう途中らしい若い住人が、急いで袋を置いたときのことだ。
「待ってください。それ、今日の分じゃないですよね」
「すみません、出勤前で」
「時間も守れないんですか!?」
「いや、回収まだ先ですし」
「ルールはルールですから!」
住人は渋々袋を抱えて引き返していった。いつか自分も呼び止められるのではと、ゴミを出すたびに身構えるようになった。
退去者続出のあとで
そのうち、マンションを去る住人が目に見えて増えた。廊下で台車を押す引っ越し業者と、何度もすれ違う。
「また一部屋、空くらしいですよ」
「あの見張りに、参っちゃったのよ」
ある朝、収集スペースに大家さんの姿があった。彼女がいつものように袋を検分しはじめると、すっと前に立つ。
「毎朝ここで、よその方のゴミを調べていますね」
「だって、守らない人がいるんです」
「それは管理する私の仕事です。次にどなたかの袋に手をかけたら、その時は契約の見直しをお願いすることになります」
穏やかな声だった。だからこそ、逃げ場がなかった。彼女は反論しようと口を動かしかけて、そのまま言葉を飲み込んだ。
「私は、違反を……」
言いかけた声は途中で消えた。検分しかけた袋をそっと置き、顔を伏せて足早にその場を離れていく。
遠くで様子をうかがっていた住人たちが、ほっとしたように顔を見合わせた。
「ようやく、ね」
翌朝から、収集スペースに居座る彼女の姿は消えた。次の日も、その次の日も、見張りの人影は戻ってこなかった。
私が袋を置いても、背中を追ってくる視線はもうない。
「おはようございます」
すれ違う住人と、ごく当たり前の挨拶を交わす。誰の視線も気にせず迎える、初めての朝だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














