「息子くん、いま大変なんだってね」なぜか知られていた私の家庭事情。ママ友の悪気のない笑顔に恐怖
園の門で呼び止められた朝
登園の列に並んでいると、別のグループのママが横に来ました。
挨拶くらいしかしたことのない相手です。
「息子くん、いま大変なんだってね」
何の話か分からず、私は聞き返しました。
「大変って、何がですか」
「おうちで口をきいてくれないって聞いたから。うちもそうだったよ」
血の気が引きました。
その話を口にした相手は、たった一人だけです。
数日前、送り迎えで一緒になるママ友に、私はこぼしていました。
息子が返事をしてくれない、自分の言い方が悪いのかもしれない、と。
彼女はいつも聞き役に回る人で、相談すると必ず最後まで聞いてくれるのです。
「朝から一言も返してくれないんです」
「あらあら。今だけよ、そういうのは」
「ですよね。誰にも言えなくて」
「うんうん。いつでも聞くから」
そのやりとりだけが、あの週の救いでした。
「どなたから聞かれたんですか」
「んー、誰だったかな。何人かから同じ話が回ってきたのよ」
その場では笑って返しましたが、門をくぐるまで足元がふわふわしていました。
悪気のない答え
帰りに、私は本人へ確かめました。
「この前の話、どなたかにされました?」
彼女は少しも慌てませんでした。
「3人にだけ、話を聞いてもらったの」
「3人、ですか」
「そう。子育ての先輩ばっかりよ。心配だったから」
あとから数えたら、同じ話を知っている人は5人いました。
止めようがありません。誰が誰に伝えたのかをたどれたとしても、その先でどう言い換えられたかまでは分からないのです。
「どうして、私に一度も聞かずに」
「聞いたら断るでしょう。困ってる人ほど遠慮するんだから」
叱られている顔でも、ごまかしている顔でもありません。彼女にとっては、これはまぎれもない善行でした。
「もう大丈夫ですので」
「うん。でも無理しないでね。いつでも聞くから」
その声は、最初に打ち明けたときと寸分違わない優しさだったのです。
次の朝から、私は彼女に天気の話しかしなくなりました。
「冷えますね」
「ほんとね。今日は風が強いって」
それだけ言って、子どもと門をくぐります。彼女は変わらず笑顔で、何かがなくなったことにも気づいていない様子でした。
誰も怒鳴らず、誰も責めず、誰も謝らないまま、我が家の話だけが園の中を歩いていったのです。あの笑顔を信じて明日また打ち明ける人がいると思うと、門の前の空気が少し冷たく感じます。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














