「まだ空いてるし前行くわ」運動会の撮影で割り込んだ夫婦。だが、午後の部で見た意外な光景とは
ロープ際へ向かった夫婦
子どもが通っていた幼稚園は園庭が狭く、運動会の日になると撮影場所には自然と列ができます。
園から配られる案内にも、場所を譲り合い、順番を守って撮影するよう書かれていました。
午前の徒競走が始まる少し前、私の横を大きなカメラバッグを持った夫婦が通っていきました。
奥さんがロープ際を指さし、旦那さんに言います。
「まだ空いてるし前行くわ」
けれど、そこは空いていたわけではありません。ロープ沿いには、早くから並んでいた保護者が一列になっていました。
列の端には、下の子を抱っこひもで抱えながら、スマートフォンを構えている父親もいました。
何も言わずに三脚を広げて
夫婦は最後尾へ向かわず、列の横からそのままロープ際へ進んでいきました。
奥さんが人の間に入り、その横で旦那さんが三脚を広げます。周囲に声をかける様子はありません。
すぐそばにいた父親は、三脚の脚が当たらないよう半歩後ろへ下がりました。それでも狭かったのか、さらにもう半歩下がります。
気づけば、父親だけがロープから人ひとりぶんほど離れた場所に立っていました。
「あの、ここ……」
父親が声をかけようとしましたが、ちょうど園庭では入場の音楽が流れ始め、その声はかき消されてしまいました。
夫婦はカメラを園庭へ向けたままです。白線の前には、これから走る園児たちが並び始めていました。
後ろを見て、初めて気づいた
そのとき、二列目にいた年配の方が静かに声をかけました。
「後ろまで、ずっと並んでますよ」
旦那さんがカメラから顔を上げ、後ろを振り返ります。
そこには、ロープ際から園舎の角まで続く保護者の列がありました。
奥さんも後ろを確認すると、旦那さんの袖を引きます。
「すみません…」
旦那さんはすぐに三脚をたたみ、奥さんも先ほど場所を譲る形になっていた父親へ頭を下げました。
二人はそのまま列の最後尾へ向かいます。
ロープ際では、周囲の保護者が少しずつ間を詰めました。父親も元の場所へ戻り、スマートフォンを構え直します。
「まだ始まってませんよ」
近くの人がそう声をかけると、父親はほっとしたように笑いました。
「ありがとうございます」
間もなく合図が鳴り、子どもたちが一斉に走り出しました。
午後には変わっていた二人
午後の親子競技が始まるころ、私はもう一度あの夫婦を見かけました。
今度は三脚を持ったまま、きちんと列の最後尾に並んでいました。
順番が進み、ロープ際へ近づいたところで、旦那さんが前にいた人へ小さく声をかけます。
「後ろから撮っても大丈夫ですか」
「どうぞ。狭いですけど」
それだけのやりとりで、周囲の人が少しずつ場所を空けていました。
朝とはまったく違う光景です。
ほんの一言、声をかけるだけで済むことだったのだと思います。
場所が限られている行事だからこそ、少しの確認や譲り合いで、周囲の空気まで変わるのだと感じた出来事でした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














