「何か怒ってる?」連絡を返さない日に届いたメッセージ。勤務時間まで知られていた私が決めたこと
気軽な誘いだと思っていた
その人と話すようになったのは、担当していた仕事が重なった時期だった。
年齢は少し上で、話し方も穏やかだったので、はじめのうちは特に気にしていなかった。
ある日の帰り際、声をかけられた。
「ねえ、今度仕事終わりにごはん行かない?」
「ありがとうございます。でも、最近ちょっと予定が詰まってて…」
「そっか。じゃあ、またタイミング合いそうなときに」
「はい、すみません」
「いや、謝らなくていいよ」
そのときは、本当にそれだけだった。
その後も何度か誘われたが、私はそのたびにやんわり断った。相手も「そっか」「また今度ね」とあっさり引いてくれるので、この距離感なら大丈夫だと思っていた。
少し変だと感じたのは、ある日の退勤後だった。
スマートフォンを見ると、その人からメッセージが届いていた。
「今日、6時くらいに上がったんだね」
一瞬、手が止まった。
その日の退勤時間を、その人に直接話した覚えはない。部署も違うし、その日はいつもより少し早めに仕事を切り上げただけだった。
ただ、会社のどこかで見かけたのかもしれない。そう考えて、その日は返事をしなかった。
ところが、そのあとも似たような連絡が続いた。
「さっき駅前の本屋にいた?」
別の日には、
「今日はいつもの電車じゃなかったんだね」
と届いた。
どれも責めるような文章ではない。むしろ、一見すると何気ない話しかけ方だった。
それでも、どう返せばいいのか分からなかった。
「なんで知ってるんだろう…」
画面を見るたび、その疑問が頭に残るようになった。
返事をしないと、連絡が重なった
それから私は、用事のないメッセージにはなるべく返さないようにした。
三日ほど返さずにいた朝、スマートフォンを見ると3通並んでいた。
「最近忙しい?」
続いて、
「何か怒ってる?」
そして最後に、
「大丈夫?無理してない?」
心配しているだけ、と言われればそう見える文章だった。
けれど、返事をしていないことをそこまで気にされていると分かった瞬間、急に息苦しく感じた。
昼休み、同僚に初めて話した。
「ちょっと聞いてほしいんだけど…最近、こういう連絡が来るんだよね」
画面を見せると、同僚は少し眉を寄せた。
「え、退勤した時間まで送ってくるの?」
「うん。でも、たまたま見かけただけかもしれないし…。会社では普通なんだよ」
「そうかもしれないけど、嫌だなって感じてるなら、無理に気にしないふりしなくていいんじゃない?」
私はしばらく黙ってから、うなずいた。
すると同僚が言った。
「帰る時間が合う日は、一緒に出ようか」
「…ありがとう。助かる」
それからは、帰る時間の合う同僚と一緒に建物を出ることが増えた。
連絡も、仕事上必要なものにだけ返した。
相手は職場では以前と変わらなかった。廊下ですれ違えば普通に会釈をするし、仕事の話をするときも穏やかだった。
だからこそ、私は余計にどう受け止めればいいのか分からなかった。
最後まで分からなかったこと
年度が変わるころ、私は別の会社へ移ることを決めた。
仕事そのものや今後のことなど、理由はいくつもあった。この件だけが退職の理由だったわけではない。
それでも、転職を決めたあとで少し肩の力が抜けたのは確かだった。
最終日、廊下でその人と顔を合わせた。
「今までありがとうございました。私、今日で最後なんです」
「あ、そうなんだ。そっか……。次のところでも元気でね」
「ありがとうございます」
それ以上の会話はなかった。
今はもう連絡先も残していないし、その人の名前を聞くこともない。
ただ、私が何時に会社を出たのか。駅前の本屋にいたことや、いつもと違う電車に乗ったことを、なぜあの人が知っていたのか。
偶然見かけただけだったのかもしれない。
結局、その答えだけは分からないままだ。
「何か怒ってる?」
あのとき届いた短い一文を思い出すと、今でも少しだけ胸の奥がざわつく。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














