「コーヒー屋も行ったでしょ」なかなか会えない彼。だが、見ていなければわからない事実を語ったワケ
買い物の報告に返ってきた一言
会えない週末は、彼への近況報告が日課になっていた。
聞かれれば、その日したことを正直に伝える。
それが当たり前だと思っていた。
「今日、何してた?」
その日も、夕方にいつものメッセージが届いた。私は買い物を終えて、玄関で靴を脱ぎながら返した。
「スーパーに寄っただけだよ」
嘘ではない。ただ、その帰りに少しだけコーヒーチェーンへ立ち寄っていた。
わざわざ言うほどのことでもないと、私はそのまま冷蔵庫に食材をしまった。
すると、すぐに返事が来た。
「コーヒー屋も行ったでしょ」
指が止まった。
たった数分、レジに並んで持ち帰っただけのこと。誰にも話していないのに、どうして彼が知っているのか分からなかった。
寒気がした、その理由
偶然どこかですれ違ったのだろうか。
私は探るように、彼に尋ねた。
「えっ、近くに居たの?」
会えない日のはずだった。
もし彼も同じ街にいたのなら、それはそれで言ってくれればいい。そんな期待は、次の一言であっけなく裏切られた。
「居なかったけど知ってるよ」
その文面を見た瞬間、二の腕に鳥肌が立った。居なかった。
それなのに、私の足取りを正確に言い当てている。理屈が通らないことが、何より怖かった。
冗談だと笑い飛ばしたいのに、口の中がからからに乾いていく。
私はもう一度、その短い一行を見つめ直した。読み返すほどに、意味が分からなくなる。
同じ街にいて偶然見かけたのなら、こんな書き方はしないはずだ。
カーテンの隙間から、外をそっとうかがってしまった。見られている気がして仕方がなかった。
「どうして分かるの?」
返信を送るかどうか迷っているうちに、スマホが震えた。文字では埒があかないと思ったのか、彼のほうから電話をかけてきたのだ。
「見ててあげてる」
耳に当てると、彼は悪びれた様子もなく、さらりと答えた。
「位置情報、オンにしてるから」
いつだったか、設定を変えておいたのだという。私のスマホがどこにあるか、どの店に寄ったかが、彼の画面にずっと表示されていた。
会えない週末も、私はひとりではなかったのだ。地図の上で、ずっと監視されていた。
「心配なだけだよ。見ててあげてるんだから、感謝してほしいくらい」
その言い分が、私には一番こわかった。本人は、善意のつもりでいる。
だから、やめてとも言いにくい。寄ったカフェ一軒すら筒抜けの毎日を、彼は「優しさ」だと信じきっていた。
通話を終えても、心臓はまだ速いままだった。テーブルに置いたスマホを、私はしばらく裏返しのままにしておいた。
それでも、画面の向こうで誰かが私の現在地を見ている。その感覚だけが、いつまでも消えてくれなかった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














