「媚びる奴が出世するだけ」平社員の夫。だが、妻が突きつけた現実に黙り込んだワケ
残高が痩せていく通帳
結婚して12年、夫はずっと平社員のままだ。
それが悪いとは思わない。
ただ、昇進の話になるたび、夫はいつも同じことを言う。
「媚びる奴が出世するだけ」
上司に取り入る同僚を鼻で笑い、飲み会も付き合いも切り捨ててきた。
本人はそれを、筋の通った生き方だと信じている。
でも、家計を預かる私には、別の現実が見えていた。
ボーナスは年々細り、通帳の残高は、増えるどころか少しずつ痩せていく。
夫が誇る信念のツケを、家計がこっそり肩代わりしていた。
子どもの塾代を削り、私は昼休みも惜しんで働いた。
それでも夫は「まあ、なんとかなるだろ」と笑うだけ。
その「なんとか」を回しているのが誰なのか、考えたこともないようだった。
ボーナス明細を見せられるたび、私は電卓を叩いては、口をつぐんできた。
言えば角が立つ。でも、黙っていても通帳は減り続ける。もう、限界だった。
通帳を並べた夜
その日、私は数年分の通帳を食卓に並べた。
「ちょっと、これ見て」
夫は最初、めんどうそうな顔をしていた。
けれど、残高の欄を指でたどるうちに、表情がだんだん固まっていく。
「毎月3万、貯金が減ってる」
私は静かにそう告げた。
「え…そんなにか」
声が、かすれていた。テーブルに広げた通帳の残高を、夫は何度も見返している。
「そう。あなたが媚びたくないって言ってる間に、これだけ減ってた」
夫は通帳をもう一度めくり、口を開きかけて、また閉じた。
何か言い返そうとして、言葉が見つからないようだった。夫の顔から、いつもの余裕がすっと消えていく。信念だと信じていたものが、ただの意地だったと気づいた顔だった。
「実力で評価されたいなら、私も応援する。でも今のままじゃ、子どもの進学のお金も危ういの」
「進学って…まだ先の話だろ」
「その先のために、今から貯めるものなの。あなたのプライドを守ってる余裕は、うちにはないの」
夫はうつむいたまましばらく黙り込み、やがてぽつりと言った。
「…そこまで追い込まれてたとは、思わなかった」
数日後、夫は転職エージェントに登録したと報告してきた。媚びずに評価される会社を、本気で探してみると。
「何も見てなかった。ごめん」
そう言って頭を下げた夫の姿は、少し情けなくて、それでもどこか清々しかった。
食卓に通帳を並べたあの夜から、夫は毎月の残高を自分から見るようになった。プライドより先に、家族の生活を見るようになったのだ。それだけで、私には十分だった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














