「その化粧品、明日には私も持ってる」話した順に持ち物を真似る先輩。だが、私が置いた指輪に興味を示した結果
予告どおりに変わる持ち物
事務職として働いていた、二十代の頃のことです。
同期とのおしゃべりだけが、単調な一日の楽しみでした。
その日も、休憩室で新しい化粧品の話をしていました。少し離れた席に、無口な先輩がいたのを覚えています。
翌日、その先輩が同じ化粧ポーチを持っていることに気づいたとき、同期が小声で言いました。
「ねえ、あの化粧品、昨日私たちが話してたやつだよね」
最初は偶然だと思いました。けれど、それは一度では終わりません。
髪型を話せば翌週その髪型に。髪色を話せば、その色に。私たちが口にした順番のとおりに、先輩の見た目が塗り替えられていったのです。
やがて先輩は、隠そうともしなくなりました。
廊下で私を呼び止めて、こう言ったのです。
「その化粧品、明日には私も持ってる」
予告でした。
そして翌日、先輩の机には、本当に同じブランドの化粧ポーチが置かれていたのです。
ぞっとして立ちすくむ私に、先輩は満足げに微笑みます。
「あなたの持ち物、全部いいと思うの。だから同じにしたいだけ」
「やめてください」
思わず出た私の声にも、先輩はきょとんとするばかりでした。
休憩中、先輩は近くにいないはず。なのに、なぜ会話がすべて筒抜けなのでしょう。
机に置いた指輪と、翌日の沈黙
このままでは気味が悪い。私は同期と、一つの罠を仕掛けることにしました。
いつもは使わない、建物の裏手にある狭い休憩スペースを選びました。
そこで机の上に一つの指輪をわざと置いて、聞こえよがしに話すのです。
「この小指の指輪、すごく気に入ってるんだ」
「いいなあ、私も同じの探そうかな」
そう話しはじめた時、少し後ろから、先輩がついてくる足音がしました。
私たちは気づかないふりで、指輪の話を続けます。
そして翌日。先輩の小指には、机に置いたものとそっくりの指輪がはまっていたのです。
私は同期と目を合わせ、先輩に聞こえるように、はっきりと言いました。
「あの指輪で試したの、気づいた?」
先輩は、動きを止めました。
指輪をはめた手が、宙で固まります。顔からみるみる血の気が引き、開きかけた口は、とうとう一言も発しませんでした。
その場に、痛いほどの沈黙が落ちます。
通りかかった別の同僚が、ささやきました。
「あの人の真似、やっぱりわざとだったんだ」
それきり、先輩が私たちの会話に聞き耳を立てることはなくなりました。すれ違っても、目を伏せて通り過ぎるだけです。私の持ち物を欲しがっていた視線は、もうどこにも向いてきません。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














