「気にするのはやめて、神経質よ」里帰り中の仮眠を邪魔された私。だが、母の一言に絶句
アポなしで開いた襖
里帰りして、四日目の朝だった。
夜中に三度起きて授乳し、明け方にやっと娘が眠った。私も布団に潜り込んで、意識が落ちかけていた。
玄関で、聞き慣れない靴音がした。
「上がるねー、近くまで来たから」
夫の姉だった。実家の隣の町内に住んでいて、私が帰ってきていると聞きつけたらしい。連絡は、なかった。カーテンの隙間から、朝の光が細く入っていた。
二歳の甥っ子が廊下を駆けてくる。ミニカーを畳に走らせる音。棚を片端から開ける音。
襖が、引き開けられた。
「ほら、赤ちゃんだよー」
娘が泣き出した。抱き上げてあやしても、しゃくり上げて止まらない。
「ごめーん、寝てた?」
義姉に悪気はなかった。悪気がないぶん、こちらは何も言えなかった。娘が泣き止んだのは、一時間後だ。その頃には、私の眠気はどこかへ消えていた。
朝の台所で告げた本音
義姉が甥っ子を連れて帰ったあと、私は台所で母に言った。
「せめて、前もって連絡がほしかった」
母は洗い物の手を止めずに答えた。
「気にするのはやめて、神経質よ」
「……え」
「そんなふうに育てると、神経質な子になるよ。仕方ないじゃない、身内なんだから」
娘の重みが、腕にずしりと残っていた。ここで黙ったら、あと一か月これが続く。私は椅子に座り、母の背中に向かって言った。
「お母さん。私が里帰りしたのは、身体を休ませるためなんだよ」
蛇口の音が、止まった。
「誰が来るのも構わない。でも、来るなら必ず連絡してほしい。それだけ」
母は振り返らないまま、しばらく動かなかった。それから濡れた手をエプロンで拭いて、こちらを向く。
何か言いかけて、飲み込んだ。目が、私の腕の中の娘に落ちた。
「…あんた、顔色が悪いね」
「三日で、合わせて六時間くらいしか寝てない」
母が、椅子を引いて隣に座った。
「神経質って言って、ごめん。あんたが弱音を吐かないから、平気なんだと思ってた」
「平気じゃないよ」
「うん。……うん」
母はそのまま立ち上がり、その場で義姉に電話をかけた。窓から入る光が、受話器を握る母の手元で揺れている。
「次からは、来る前に一本ちょうだいね。この子、休ませたいの」
受話器の向こうで、義姉が慌てているのが分かった。母は最後まで、口調を変えなかった。
それから、実家に誰かが突然上がり込むことはなくなった。義姉は必ず前日に電話をくれる。
「明日の午後、三十分だけいい?」と。母は、私が横になっている間、居間の襖の前に座って誰も通さない。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














