「名前覚えたからな」写真の仕上がりに怒った客。だが、帰り際の一言に背筋が凍った瞬間
受け取った写真を見て、表情が変わった
写真店でプリントの受付をしていたころの話です。
その日の閉店間際、男性が仕上がった写真を受け取りに来ました。男性は封筒から何枚か取り出すと、その場で一枚ずつ確認し始めました。
しばらくすると、一枚の写真を持ったまま眉間にしわを寄せました。
「これ、顔が暗いじゃないか」
見ると、室内で撮られた写真で、もともとのデータも少し暗めでした。
プリントすると、スマートフォンなどの画面で見るより暗く感じることがあります。受付の際にも通常の補正をかけていましたが、男性が期待していた仕上がりとは違ったようでした。
「焼き直しをしろ」
急に強い口調でそう言われ、私は少し身構えました。
「明るさを調整して、もう一度お作りすることはできます」
そう説明しましたが、男性は写真を何度も見ながら納得できない様子です。
「最初からちゃんとやってくれればいいんだよ」
こちらで撮影した写真ではありません。
それでも、仕上がったものに不満があったこと自体は理解できたので、私はできる対応をもう一度説明しました。
すると男性は大きく息を吐き、写真を封筒へ戻しました。
「もういい。頼んだ俺が悪かったよ」
そう言って、レシートを手に出口へ向かいました。
帰り際に向けられた視線
これで終わったと思い、私は小さく息をつきました。
ところが男性は、自動ドアの前まで行ったところで足を止めました。
そして振り返ると、まっすぐ私の胸元を見たのです。
そこには、仕事中ずっと付けている名札がありました。
男性は数秒ほどそれを見たあと、私の名字を口にしました。
「……名前覚えたからな」
怒鳴ったわけではありません。
むしろ、それまでよりずっと静かな声でした。
何をするという言葉もなく、男性はそのまま店を出ていきました。
だからこそ私は、返事ができませんでした。
ただ名前を読まれただけです。それでも、さっきまで強い口調で怒っていた相手から「覚えた」と言われると、急に自分個人へ意識を向けられたように感じたのです。
私はすぐに、その日の責任者へ一連のやり取りを報告しました。
男性が店へ戻ってくることも、その後何かされることもありませんでした。電話がかかってきたこともありません。
結局、実際の被害は何もありませんでした。
それでもしばらくは、仕事帰りに店を出るとき、周囲を確認する癖がつきました。
接客をしていれば、名札を見られること自体は珍しくありません。
けれど、怒っていた相手から帰り際に静かな声で「覚えたからな」と言われたあの瞬間だけは、今でもふと思い出します。
大声で怒鳴られたときより、あの落ち着いた一言のほうが、ずっと背筋に残りました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














