「あの肉、ちょっと硬すぎたよ」支払いに納得できない客。だが、店長が正論をぶつけた結果
名前で呼ばれるたび、少しうれしかった
鉄板料理店でアルバイトを始めて、少しずつ仕事に慣れてきたころのことです。
その日、私が担当したお客様は、席についたときからよく笑う人でした。
料理を運ぶと、「お、来た来た。ありがとう」とうれしそうに箸を取り、私の名札を見ると、すぐに名前を呼んできました。
「すみません、もう一杯お水もらえる?」
「はい、ただいまお持ちします」
「ありがとう。忙しそうだね」
そんなやり取りが何度か続きました。
まだ接客に自信がなかった私は、名前を覚えてもらえたような気がして、少しうれしくなっていました。
料理もよく進み、最後にテーブルを見たときには、お皿はすっかり空になっていました。
ところが、食後に「ちょっといい?」と呼ばれて近づくと、さっきまでとは少し違う声で言われたのです。
「いやあ……あの肉、ちょっと硬すぎたよ。正直、これで普通に払うのは納得できないな」
私は思わず、「えっ」と声を漏らしそうになりました。
「お肉、ですか……?」
「うん。かなり硬かった。あれはちょっとね」
料理はすでにすべて食べ終わっています。途中では何も言われていなかったため、どう答えればいいのか分かりませんでした。
「申し訳ありません。私では判断できないので、店長を呼んできますね」
店長は、言い返すのではなく確認した
店長が来ると、お客様はもう一度、「肉が硬かったから、この金額をそのまま払うのはどうなの」と話しました。
店長は途中で遮らずに聞き終えると、「そうでしたか。ご満足いただけなかった点は申し訳ありません」と一度頭を下げました。
そのあと、空になった皿を見て、テーブルの端に置かれていた伝票を手に取りました。
「ただ、ご注文いただいたものは、伝票にも全部残っていますよ」
お客様は少し黙りました。
店長は声を強めることなく、続けました。
「もし途中で『硬いな』と思われた時点で言っていただけたら、こちらでも確認できました。状態によっては作り直すこともできたんです」
「でも、食べてみないと分からないでしょ」
「もちろん、最初の一口では分からないこともあると思います。ただ、今回はすべて召し上がったあとですので、お会計は通常どおりお願いしたいです」
店長の言い方は淡々としていましたが、突き放すような冷たさもありませんでした。
お客様は空のお皿をちらりと見て、「……そう」とだけ答えました。
少し気まずい沈黙が続いたあと、その人は財布を取り出しました。
「じゃあ、払うよ」
会計を済ませると、今度は私の名前を呼ぶこともなく、そのまま店を出ていきました。
私はほっとする一方で、接客では相手が笑顔だからといって、最後まで何もないとは限らないのだと知りました。
それ以来、料理を下げる前には、「お味はいかがでしたか」「何か気になるところはありませんでしたか」と、なるべく一度声をかけるようにしています。
その場で言っていただければ、できる対応もあるからです。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














