「なんでレジ開けないの?」レジの列で怒鳴り散らしていた客。だが、他の客の言葉に救われた瞬間
開いているレジは、ほんの数台だった
その日のスーパーは、いつもより混んでいた。レジの前には長い列ができていて、私はカゴを抱えたまま、その真ん中あたりで順番を待っていた。
いくつもあるレーンのうち、開いているのは2〜3台だけ。ほかのレーンは灯りが消えたままだった。
列は少し進んでは止まり、また少し進む。私も「今日は時間がかかりそうだな」と思いながら、前の人についていった。
すると、前のほうから突然、大きな声が聞こえた。
「ちょっと、こんなに並んでるのに、なんでレジ開けないの?」
声を上げていたのは、カゴを持った男性だった。何度も前をのぞき込んでいたので、待ち時間にかなり苛立っていたのだと思う。
「もうずっと待ってるんだけど。もう一台くらい開けられないの?」
レジの店員は商品を通す手を止めず、男性のほうを見て答えた。
「お待たせして申し訳ありません。今は、ほかのレジを開けることができなくて……」
「いや、だからさ。こんなに人が並んでるんだよ?見れば分かるでしょ」
男性の声は、さらに大きくなった。
店員は困ったような表情を浮かべながらも、「申し訳ありません」と短く答え、目の前の商品を通し続けていた。
「謝ってほしいんじゃないんだよ。早く何とかしてって言ってるの」
男性がそう言うたび、周囲の人たちは気まずそうに視線をそらしていた。
私も内心では「店員さんに言ってもどうにもならないんじゃ……」と思ったが、間に入る勇気はなかった。
「みんな同じように待ってますよ」
そのとき、男性より数人後ろに並んでいた人が、少しためらうように声をかけた。
「あの……並んでいるのは、店員さんのせいじゃないですよ」
男性が振り返った。
「は?」
一瞬、空気が張りつめた。
けれど、その人は言い争うような口調にはならなかった。
「私たちも待ってますし。店員さんに怒っても、レジが開くわけじゃないと思います」
少し間を置いてから、さらに静かに続けた。
「みんな同じように待ってますよ」
男性は何か言おうとして、「いや、でも……」と口にした。
しかし、その先の言葉は続かなかった。
ちらりと周囲を見回したあと、「……もういいよ」と小さくつぶやき、前を向いた。
それからはカゴを持ったまま、黙って自分の順番を待っていた。
誰かが男性を言い負かしたわけではない。閉まっていたレーンが開いたわけでもなく、列が急に短くなったわけでもなかった。
それでも、さっきまでレジ前に響いていた怒鳴り声がなくなると、周囲の空気は少しだけ落ち着いた。
やがて私の番が来た。
カゴを台に置くと、店員が「お待たせしました」と少し疲れたような声で言った。
「いえ、大丈夫です」
私がそう返すと、店員は小さく頭を下げた。
ほんの数分前まで張りつめていたレジ前も、そのころにはいつものスーパーの風景に戻っていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














