「だったら、そっちが来ればいいだろ」閉鎖中のレジから動かなかった客。その後、店長の対応とは
同じことを、三度伝えることになった
週末だけ入っていたスーパーのレジで、今でもよく覚えているのが土曜の昼のことです。
昼の混雑が少し落ち着いた時間で、そのときは1番レジだけを開け、隣の2番レジには「休止中」の札を立てていました。私は1番レジで会計を続けていました。
そこへ、上下のそろったスーツ姿の男性がやってきました。飲み物を数本入れたかごを持っていましたが、1番レジの列には並ばず、閉まっている2番レジの台にそのままかごを置きました。
札に気づいていないのかと思い、私は1番レジから声をかけました。
「すみません。そちらのレジは今、閉めているんです。こちらへお願いします」
男性はこちらを見ましたが、かごを持ち上げる様子はありません。
「ここでいいよ」
一瞬、聞き間違えたのかと思いました。
「申し訳ありません。今はこちらのレジだけなんです」
もう一度伝えると、男性は眉を寄せました。
「聞こえてるよ。だったら、そっちがこっちに来ればいいだろ」
予想していなかった返事に、私は少し言葉に詰まりました。
「すみません。こちらに並んでいただけますか。順番にお会計していますので…」
それが三度目でした。
男性は大きく息を吐きました。
「レジなんだから、こっちでやればいいじゃないか」
その間にも1番レジには客が並び始めています。これ以上やり取りを続けるのは難しいと思い、私は近くにいたスタッフに店長を呼んでもらいました。
店長が来るまで、男性は2番レジの前から動きませんでした。
「まだなの?」
急かすように言われ、私は「少々お待ちください」と返すのが精いっぱいでした。
やがて店長が来ると、まず男性に声をかけました。
「お待たせしました。こちらのレジでお会計しますので、かごをお持ちいただけますか」
男性は何か言いたそうな顔をしましたが、しばらくしてかごを持ち上げました。
店長が1番レジに入り、そのまま会計を引き継いでくれました。私は少し離れた場所で待ち、男性が店を出てから戻りました。
次に並んでいた高校生くらいの女の子が、小さな声で聞いてきました。
「大丈夫ですか?」
その一言で、張っていた肩の力が少し抜けました。
「ありがとうございます。大丈夫です」
そう答えたものの、しばらく手の震えが止まりませんでした。
「次から、一人で対応しなくていいから」
その日の締め作業が終わったあと、私は事務所で店長に経緯を話しました。
「最初に、閉まっているのでこちらへお願いしますって伝えたんです。でも動いてもらえなくて……結局、三回言いました」
店長は途中で口を挟まず、最後まで聞いてくれました。
「三回もやり取りしたのか」
「はい。途中から、何を言っても怒らせそうで……ちょっと怖かったです」
そう言うと、店長は少し考えてから答えました。
「分かった。次からは、一人で何とかしようとしなくていいから」
「また同じようなことがあったら、どうすればいいですか?」
「一度案内して、それでも聞いてもらえなかったら俺を呼んで。そこで言い合いにならなくていい」
「すぐ呼んでも大丈夫ですか?」
「大丈夫。レジを止めないことも大事だけど、無理して対応する必要はないよ」
その言葉を聞いて、ようやく少し安心しました。
それからは、対応が難しい客が来た場合はインカムで店長を呼び、必要なら閉めている2番レジを開けて、ほかの客を待たせないようにすることになりました。
三週間後、また同じ男性が来た
三週間ほどたった土曜の昼、その男性が再び店に来ました。
私が気づいたのは、飲み物の入ったかごを持ってレジへ近づいてきたときです。見覚えのあるスーツ姿と顔を見て、すぐにあの日の男性だと分かりました。
私はインカムで店長を呼びました。
男性は前回と同じように、休止中の札が立っている2番レジのほうへ向かおうとしました。
そこへ店長が来て、先に声をかけました。
「いらっしゃいませ。お会計はこちらで承ります」
男性は足を止め、店長を見ました。
「前は、こっちでやってくれたけど」
「申し訳ありません。こちらのレジで順番にご案内しています」
店長の声は穏やかでしたが、迷いのない言い方でした。
男性はしばらく黙ったあと、1番レジにかごを置きました。
店長が1番レジで男性の会計を始めたので、私は隣の2番レジの休止札を下げて入り、後ろに並んでいた客へ声をかけました。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「あ、はい。お願いします」
親子連れがこちらへ移り、二台のレジが同時に動き始めました。
あの日のような強い言葉は聞こえてきませんでした。
店長も必要以上のことは言わず、いつもと同じように会計を終えました。
男性が店を出たあと、店長がこちらを見ました。
「大丈夫だった?」
「はい。今日は大丈夫です」
「ならよかった」
それだけでした。
そのあとのレジ前には、かごを台へ置く音と、袋を開く音だけが続いていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














